断熱性能の基本3 隣接空間の温度を見込む

温熱環境を考える時に、隣接空間の温度はとても大切です。

温度差が2倍になれば、熱の移動も2倍になります。さたに暖冷房の光熱費も2倍になります。

例えば集合住宅で、みんなが同じように暖房をつけて同じ温度で暮らしていれば熱は隣室に熱は逃げません。

一方で戸建て住宅は基本的に家の外は全て外気ですので、冷え込む日の温度差は非常に大きく、熱が逃げやすくなります。
これを防ぐのが断熱性能(保温性能)です。温度差が大きくなっても熱貫流率の性能が高ければ、それほど熱は逃げません。

では戸建て住宅の外皮が接する外気温はすべて同じでしょうか?例えば床下は外気温よりも少しだけ暖かいと思いませんか?それらを断熱計算に見込むのが温度差係数です。

温度差係数とは、外気温と室温の差を1.0(100%)とした場合の隣接空間との温度差を表します。
例えば、床下換気口などで外気とつながる床下は外気まで冷え込むことはなく温度差係数は0.7です。(下表参照)
つまり、外気温0℃、室温20℃の場合、温度差は20℃ですので、0.7(70%)の温度差ということは14℃差となり、床下の気温は6℃と見込みます。[※1]
集合住宅の隣戸は、同じ温度で暖房していれば熱移動が発生しません(温度差係数0)が、省エネ基準では空き室も考慮して、0.15(6地域の温度差係数)と見込みます。上記と同じ温度設定であれば隣室は17℃想定になります。

では、建物内部の隣室空間はどうでしょうか。
間歇暖房(居室にいる時だけ暖房をつける方式)では、暖房している部屋から間仕切壁を通して熱が隣室に逃げていきます。これによって、暖房していない廊下やトイレなどを暖めています。
この暖房していない非居室や廊下、水廻りの温度を想定するのにも温度差係数を使用します。

これらのイメージができると、部屋間の移動時のヒートショックの軽減になるし、何より寒さを感じない温度域を実現できます。

暖房室の割合や外皮の断熱性能によって大きく影響を受けますが、下表に参考の値を示します。[各設定は※2]

准教授 辻 充孝

※1 省エネ基準程度の床断熱の場合、詳細な熱移動計算を行うと概ねこの程度の温度になります。

※2 間歇暖房時の隣室の温度差係数です。間仕切壁は外皮ではないため省エネ法の計算では使いませんが参考値です。ここに示す値は、暖房室の床面積割合が20~30%程度の場合、UA値がそれぞれ高断熱0.42、中断熱の0.86、低断熱の1.69、無断熱3.65の値の目安値です。(改修版自立循環型住宅の設計ガイドラインより)

熱貫流率U値から室内表面温度の計算する(心地よいエコな暮らしコラム19)」で紹介した床表面温度を計算する際は、温度差係数を考慮した床下の気温を見込んで適切に設定します。

※「無理をしないで心地よくエコに暮らす住まいのルール」を建築知識で連載中。
断熱性能UA値の活用は、2021年7月号(第13回)で解説。

2021年7月号 第13回「断熱性能の基本③ 建物全体の断熱性能UA値を読み解く」
RULE1 建物全体の断熱性能はUA値で考える
RULE2 UA値を計算する
RULE3 熱損失のバランスから設計を考える
やってみよう! 「仕様変更した場合の外皮平均熱貫流率UA値の再計算」

計算演習や、このブログで書ききれない内容も書いてます。
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