快適な室内環境「バウビオロギー25の指針」(バウビオロギー・コラム)
前回のコラムで「バウビオロギーの25の指針」の簡単なチェックリストを紹介しました。
25の指針はIBN(バウビオロギー・サステナビリティ研究所)で公開
今回からは、25の指針の大項目別に内容をより詳細に見ていきます。
現代の私たちは、一日のうちなんと約9割もの時間を室内で過ごしていると言われています。だからこそ、私たちが包まれる「家」は、衣服(第二の皮膚)のさらに外側にある「第三の皮膚」として、健やかに息ができる場所でなければなりません。
ドイツで生まれた建築生物学「バウビオロギー」には、健康で持続可能な住まいをつくるための「バウビオロギー25の指針」があります。
快適な室内環境
今回はその中から、最も私たちの身体に直結する最初のテーマ「快適な室内環境」に定められた5つの指針について、なぜそれが大切なのか、そして日本の気候風土で取り入れる際の注意点を交えて解説します。
指針1:刺激を引き起こす素材、有害物質の使用を減らし、新鮮空気を十分に確保する
現代の住宅は気密性が高くなった一方で、化学物質を含む建材や接着剤が多用されると、室内に有害物質がこもりやすくなります。これらが引き起こすシックハウス症候群や化学物質過敏症を防ぐためには、そもそも室内に「持ち込む有害物質を減らすこと」、そして「常に新鮮な空気を循環させること」が不可欠です。
日本の建築基準法では「24時間換気システムの設置」が義務付けられていますが、機械だけに頼るのではなく、「素材そのものの引き算」が重要です。特に日本の夏は高温多湿になるため、化学物質の揮発量(放散量)が増える傾向にあります。ビニールクロスや合板を多用した部屋で機械換気を回すだけでなく、下地や接着剤にまで配慮した自然素材選びと、季節に応じた効果的な通風計画(窓の配置)が求められます。
指針2:健康を損ねるカビ、酵母菌、バクテリア、塵埃(じんあい)、アレルゲンを回避する
カビやバクテリア、ハウスダストなどのアレルゲンは、喘息やアレルギー性疾患の大きな原因になります。これらは、室内の「水分(湿気)」「温度」「栄養(汚れ)」の条件が揃ったときに爆発的に繁殖します。これらをデザインの力や日々の工夫で未然に防ぐことが、住まいの健康において極めて重要です。
梅雨や夏に圧倒的な湿気を迎える日本において、カビ対策は最重要課題です。近年は高気密・高断熱化が進んでいますが、冬場の「内部結露(壁の中の結露)」や、夏場のエアコンによる「夏型結露」がカビを誘発するケースが増えています。 日本の住まいでこれを回避するには、「透湿性と調湿性」のバランスが鍵になります。壁の中に湿気を溜め込まない防湿・透湿設計を行い、室内には湿気を受け止めてくれる漆喰や無垢材などの調湿建材を採用することが極めて有効です。
指針3:無臭もしくは良い香りのする材料を用いる
人間の「嗅覚」は、五感の中でも特に本能や感情、自律神経にダイレクトに作用する繊細な感覚です。化学的な接着剤や塗料のにおいは、自覚がなくても身体にストレスを与え続けます。逆に、木やい草といった自然の心地よい香りは、リラックス効果をもたらし、心身の健康を整えてくれます。
新築特有の「ツンとするにおい(引き渡し時のにおい)」を当たり前だと思わないことが大切です。日本には、古くから杉や檜(ひのき)、畳のい草など、優れた芳香と抗菌効果を持つ素晴らしい建材が豊富にあります。 ただし、自然の香りであっても「強すぎる匂い」は人によってストレス(アレルギー反応など)になることがあります。素材が持つ本来のほのかな香りを生かし、人工的な芳香剤に頼らなくても「深呼吸したくなる清浄な空気」をつくることが日本の家づくりには馴染みます。
指針4:電磁場、無線(ワイヤレス)通信を最小限に
バウビオロギーでは、目に見えない「電磁波(エレクトリック・スモッグ)」が人体(特に睡眠時の細胞の回復)に及ぼす影響を非常に重視します。家の中に張り巡らされた電気配線からの電場や、Wi-Fi・スマートフォンなどの高周波(マイクロ波)に常にさらされる環境は、慢性的な疲労や睡眠障害の一因になると考えられているため、これを最小限に抑える先回りのアプローチ(予防原則)が必要です。
実は、日本の住宅はヨーロッパに比べて「電場・磁場」の負荷が高くなりやすい環境にあります。その理由は、日本の100Vの電圧にあります。電圧が低いため、コンセントの多くに「アース(接地)」がついておらず電場が発生し、同じ仕事(W)をするためには多くの電流を必要とするため磁場も多くなります。
また、住宅は構造上、壁や床の内部に大量の配線が通るため、寝室のベッドの周りが強い電場に囲まれてしまうことがあります。 対策として、長時間過ごす寝室や書斎の近くには大きな家電や配線集中部を設けない間取りの工夫や、必要に応じて電磁波を遮蔽・アースする「環境配慮型の電気設計(オールアース住宅など)」を取り入れることが、これからの日本の家づくりにおいて非常に大切です。
指針5:暖房のために放射熱源(放射熱・輻射熱)を優先する
一般的なエアコンなどの「対流式」の暖房は、温風で空気を暖めるため、部屋の上部だけが暖かくなり足元が冷えたり、空気が乾燥してチリやホコリが舞い上がったりします。一方、薪ストーブや床暖房、パネルヒーターのような「放射(輻射)式」の暖房は、太陽の光と同じように、人や壁・床を直接じんわりと暖めます。空気を汚さず、室温がそこまで高くなくても体の芯から心地よさを感じられるのが特徴です。
エアコンがもっとも普及している日本において、すべてを放射暖房に変えるのはコストや手間の面でハードルが高いかもしれません。しかし、日本の冬を快適に過ごすための知恵は「建物の断熱・蓄熱性能を高めること」とセットで考えることで解決します。 家の断熱性能(特に窓の性能)を高めると、エアコンで暖められた空気が「壁や床」を暖め、そこから2次的な放射熱が生まれるようになります(バウビオロギーで言う、表面温度と空気温度の調和)。 設計の工夫として、足元が冷えないような床下エアコンの計画や、日射(太陽の放射熱)を冬場にたっぷり室内に取り入れる「パッシブデザイン」を取り入れることが、日本の気候において非常に理にかなったアプローチとなります。
まとめ:個々の暮らしに合わせた「最適化」を
バウビオロギーの25の指針は、決して「あれもダメ、これもダメ」と厳格に縛るためのものではありません。大切なのは、「現実の条件の中で、自分たちが実現できる最適なバランスを見つけること」です。
特にこの「快適な室内環境」の5つの項目は、私たちが毎日吸う空気や、触れる熱、感じる光に直結しています。日本の気候(高温多湿な夏と、乾燥して寒い冬)をしっかりと見据えながら、心地よいエコな暮らしのヒントとして、できるところから住まいに取り入れてみませんか?








