建材の選択「バウビオロギー25の指針」(バウビオロギー・コラム)
前回のコラムでは、住まいを「第三の皮膚」として捉える「快適な室内環境」の5つのルールについてお話ししました。今回はそれに続く第2のテーマ、私たちの身体を包み込む空間そのものを形作る「建材の選択(建材と室内気候)」に定められた5つの指針について解説します。
建材の選択
建築資材(建材)の選び方は、部屋の温熱環境や湿度だけでなく、空気の質、ひいては私たちの五感の心地よさに決定的な影響を与えます。では、バウビオロギーが推奨する5つの指針が「なぜ大切なのか」、そして「日本の家づくりにどう落とし込むべきか」を見ていきましょう。
指針6:放射能( ラドン) のできるだけ少ない、 自然素材、汚染されていない材料を用いる
現代の建築で広く使われている合成化学系の建材は、製造から廃棄に至るプロセスで多大なエネルギーを消費し、環境や人体への汚染リスクをはらんでいます。また、石材やコンクリートなど一部の鉱物系建材の中には、微量ながら天然の放射性物質(ラドンなど)を含み、室内の放射能負荷を高めてしまうものがあります。可能な限り加工度の低い「自然素材」をそのままの形で使い、汚染のない健やかな空間のベースをつくることが基本となります。(日本ではラドンの影響が少ない場所が多いですが、気をつけないといけない地域もあります。)
日本で自然素材を取り入れる際、特に注意したいのが「一見、自然素材に見える加工品」です。例えば、表面に薄い木を貼っただけの合板(複合フローリング)や、防腐・防蟻処理(シロアリ対策)として強力な化学薬品が木材の深部まで注入された建材が挙げられます。 日本の湿気やシロアリのリスクに対して化学薬品に依存するのではなく、「天然の精油成分(檜のヒノキチオールや、杉、青森ヒバなど)が持つ、もともとの防虫・防腐性能」を活かした木材選びをすること、そして放射能負荷の少ない地場の土や石、木を使うことが、日本の環境における本当の意味での「汚染されていない建材選び」に繋がります。
指針7:断熱と蓄熱、表面温度と空気温度の調和のとれた関係に留意する
部屋の快適さは、エアコンが示す「空気の温度」だけで決まるわけではありません。いくら空気が暖かくても、壁や床の「表面温度」が冷え切っていると、人間の体からは体温が奪われ、寒さを感じてしまいます。 バウビオロギーでは、熱を外に逃がさない「断熱」と、熱をじわじわと蓄えて室温を安定させる「蓄熱」のバランスを極めて重視します。壁や床の表面温度と空気温度が調和している状態こそが、最も身体に負担のない、心地よい温熱環境を生み出します。
日本の従来の木造住宅は、柱と梁の間に軽い壁を挟む構造のため、ヨーロッパの石造りの家と比べて「断熱」も「蓄熱」も不足しがちな性質があります。近年、日本の住宅でも「高断熱化(UA値の向上)」は急速に進んでいますが、「蓄熱(熱をためる力)」の視点が抜け落ちてしまうことが多々あります。 日本の夏冬を快適にするためには、高断熱な外皮(窓や壁)をつくった上で、室内に「蓄熱性のある自然素材」を部分的に配置するのが効果的です。例えば、密度の高い無垢の厚板フローリング(マツなど)や、熱を蓄える性質のある厚塗りの土壁・漆喰などを取り入れることで、室内の温度変化が緩やかになり、冷暖房に過度に頼らない快適な住まいが実現します。
指針8:調湿性能(湿気調節機能)をもった材料を用いる
室内の空気が極端に乾燥すると、気道の粘膜が傷つき、ウイルスやハウスダストが空気中に浮遊しやすくなります。逆に湿気が高すぎると、カビやダニの温床になります。 機械(加湿器や除湿機)に頼りすぎた調湿は、機械の内部に潜む菌を撒き散らすリスクや電気代のストレスを生みます。建材そのものが周囲の湿度に応じて湿気を吸ったり吐いたりする「吸放湿性(調湿性能)」を持っていれば、部屋がまるで生き物のように自動で快適な湿度(40〜60%)をキープしてくれます。
世界でもトップクラスに湿度変化が激しい日本において、この指針は最も相性が良く、かつ最も重要です。しかし現代の日本の住宅の多くは、壁の表面を「ビニールクロス(プラスチックの膜)」で覆ってしまっているため、建材が呼吸できません。 日本の家づくりでは、壁紙にビニールクロスを避け、「和紙」や「漆喰(しっくい)」「珪藻土(けいそうど)」、下地には「石膏ボード」ではなく「透湿性のある建材」や「木」を選ぶなど、壁を何層にも渡って「呼吸(透湿・調湿)できる設計」にすることが求められます。これによって、梅雨のジメジメ感や冬の結露が劇的に改善されます。
指針9:新築(躯体)の湿気の放散に注意する
建物を建てるとき、コンクリートやモルタル、木材、接着剤など、多くの材料が水分を含んだ状態で施工されます。これらの建築時に持ち込まれた大量の湿気(初期施工水分)が完全に抜けるまでには、数ヶ月から数年かかると言われています。 新築直後にこの湿気が室内にこもったままだと、おろしたての綺麗な壁の裏側でカビが発生し、住み手の健康を害する原因になります。湿気た家は、いわば「濡れた衣服をずっと着ている状態」と同じで、寒さや不快感の原因にもなります。特に水分を多く含むRC造(鉄筋コンクリート造)では要注意です。
日本の家づくりでは、特に「工期(スピード)」が優先されがちな点に注意が必要です。コンクリートの基礎が十分に乾ききる前に床を伏せてしまったり、雨に濡れた木造の構造材をそのまま気密シートで塞いでしまったりすると、壁の内部に湿気が閉じ込められ、数年後に構造を腐らせる原因(内部結露)になります。 日本の気候において新築時の湿気をうまく逃がすには、「施工中の乾燥期間を正しく設けること」、そして工事中や引き渡し後の最初の1年間は、特に意識して「こまめな換気・通風」を行うよう、設計者・施工者・住み手が一体となってバトンを繋ぐ意識が不可欠です。基礎断熱の場合は特に床下の湿気に注意しましょう。
指針10:部屋の音響、遮音を最適にする(低周波の振動も含む)
「音の環境」は、私たちの自律神経や睡眠の質に深く関わっています。外からの不快な騒音を遮る「遮音」はもちろん、室内での声の響きを心地よく整える「音響(吸音)」の視点も、ストレスのない暮らしには欠かせません。 特に、現代の都市環境で増えている「低周波の振動(自動車、電車の振動や、大型の換気扇、エアコン室外機などが発する重低音)」は、耳にハッキリと聞こえなくても、身体が微細なストレスを感じ続け、不眠や頭痛を引き起こす原因(低周波音被害)になるため、先回りの配慮が必要です。
日本の木造住宅は、構造的に「軽いため、音が通りやすい(遮音しにくい)」という弱点があります。さらに、現代のミニマルなデザイン(ツルツルしたプラスチック建材やガラス、フローリングだけの部屋)は、音がキンキンと反響しやすく、家族の声が響きすぎて疲れてしまう空間になりがちです。 日本の住まいで音響を最適化するには、「素材の吸音・遮音特性」の組み合わせがポイントになります。床に無垢の柔らかい木(杉や檜など)を使って適度な吸音性を持たせたり、寝室の近くには振動の原因となるエコキュートやエアコン室外機を配置しない間取りの工夫が必要です。また、低周波の揺れを抑えるために、木造であっても構造の剛性(強さ)をしっかりと確保する設計が大切です。
まとめ:建材を「単一の性能」だけで選ばない
今回ご紹介した5つの指針に共通しているのは、「建材を多面的・総合的に見る」というバウビオロギーの思想です。 例えば、「断熱性が高いけれど、全く呼吸をしないプラスチックの建材」を選ぶか、「断熱・蓄熱・調湿・音響のすべてを少しずつ、優しくクリアしてくれる自然の木や土」を選ぶか。数字上の1つの性能だけに目を奪われるのではなく、住まい全体が心地よい循環を生み出しているかどうかが、日本の四季を豊かに生きる鍵になります。
「快適な室内環境」という皮膚を作り、それを「建材の選択」という骨肉で支える。この2つが揃って初めて、本当に健康な家づくりの土台が完成します。








