空間の造形「バウビオロギー25の指針」(バウビオロギー・コラム)

前回までのコラムでは、住まいの空気や熱といった「快適な室内環境」、そしてそれを形作る「建材の選択」についてお話ししました。第3回となる今回は、バウビオロギー25の指針の3つ目のテーマである「空間造形と建築(人間を基礎に据えたデザイン)」の5つのルールについて解説します。

空間の造形

バウビオロギーでは、物理的な性能(温度や空気のきれいさ)だけでなく、空間そのものが人間の「心」や「感覚」にどう作用するかという「心理的な心地よさ」も同じくらい大切にしています。どのようなデザインや空間のしつらえが私たちを癒してくれるのか、そして日本の家づくりにどう活かしていくべきかを見ていきましょう。

指針11:調和的なプロポーションと形態に注意をはらう

人間は無意識のうちに、自然界に存在する形や黄金比などの「調和のとれたプロポーション(比率)」に対して、安心感や美しさを感じます。逆に、不自然に尖った形や圧迫感のある極端な天井高、バランスの悪い窓の配置などは、長期間そこで過ごすうちに、気づかないうちに心理的なストレスや緊張を強いてしまいます。住まいは毎日目にするものだからこそ、奇抜さよりも「自然で無理のない形」であることが精神的な安定に繋がります。

日本の住宅は、敷地の狭さや斜線制限などの厳しい法規制によって、どうしても複雑な形(凸凹した外観や、斜めの天井など)になりがちです。また、ハウスメーカーの規格住宅では、効率を優先して窓の位置が不自然になっていることも少なくありません。 日本で調和のとれた空間をつくるには、「重心を低く抑えること」と「日本特有のモジュール(尺貫法)」を活かすことがポイントです。昔ながらの日本家屋のように、軒を深く出して水平ラインを強調したり、畳や障子の「1間(約1.8m)」という身体に馴染んだ寸法を設計に取り入れることで、限られた空間でもホッと落ち着く美しいプロポーションを生み出すことができます。

指針12:見る、聞く、嗅ぐ、触れるなど感覚知覚がもたらす印象を支援する

私たちは空間を「目」だけで判断しているわけではありません。足の裏で感じる床の温もりや柔らかさ(触覚)、木のほのかな香り(嗅覚)、風が通り抜ける音や生活音の響き(聴覚)など、五感すべてで「心地よさ」を認識しています。ツルツルとした人工物ばかりの空間は、感覚を麻痺させたり過度に刺激したりします。五感を優しく刺激し、豊かに育む空間は、特に子どもの健やかな成長や大人の疲労回復に欠かせません。

現代の日本の住宅は、掃除のしやすさやコストを優先するあまり、ビニールクロスやプラスチック製のフローリングなど、視覚的には木目に見えても「触れると冷たい・硬い」「匂いがない(または接着剤の匂いがする)」というフェイク素材(新建材)で溢れています。 これを改善するには、「本物の自然素材(無垢材、土壁、和紙など)を、手が触れる場所から取り入れること」です。例えば、素足で歩く床には無垢の杉板を使ったり、手に触れる手すりや建具を無垢の木にするだけで、日々の暮らしの中で五感が心地よく満たされる日本の住まいになります。

指針13:自然に近い光のバランスと色に注意し、点滅のない照明(光源)を用いる

人間の体内時計(サーカディアンリズム)は、太陽の光(昼光)によってリセットされ、整えられます。そのため、自然光をたっぷり取り入れることは健康の基本です。一方で、夜間に青白い強いLEDの光(ブルーライト)を浴び続けたり、目に見えない速さでチラチラと点滅(フリッカー現象)している質の悪い照明の下にいると、自律神経が乱れ、眼精疲労や睡眠障害の原因になります。自然のサイクルに逆らわない光の計画が求められます。

日本の住宅照明は、ひと昔前の「一部屋に一つの大きな丸いシーリングライト(昼光色)」で全体を均一に明るくするというスタイル(一室一灯照明)がまだまだ根強く残っています。しかし、これは夜のリラックスタイムには明るすぎます。 日本でのバウビオロギー的なアプローチは、「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」の美意識を取り戻すことです。夜は煌々と照らすのではなく、電球色(夕日のような温かい色)のペンダントライトや間接照明、スタンドライトを必要な場所(食卓や読書灯)に複数配置する「多灯分散照明」を計画しましょう。光と影のグラデーションを楽しむことで、心身を自然にリラックスモードへと導くことができます。

指針14:生理学的、人間工学的な認識に配慮したインテリアと家具を提案する

どれだけ建物が素晴らしくても、毎日座る椅子やベッド、作業するキッチンの高さが身体に合っていなければ、肩こりや腰痛などの身体的な負担を生み出します。バウビオロギーでは、人間工学(エルゴノミクス)に基づいた、身体の構造に無理のない家具選びや配置を重視します。また、使う人の年齢やライフステージの変化に合わせて、柔軟に対応できるしつらえであることも重要です。

日本人は欧米人に比べて小柄であるにもかかわらず、輸入家具や規格化されたキッチンなど、サイズの合わない設備を使って無理な姿勢を強いられているケースがあります。また、高齢化が進む日本においては、将来の足腰の衰え(バリアフリー)も考慮しなければなりません。 設計の段階で、住む人の身長に合わせたキッチンの高さ(一般的に身長÷2+5cm)を計算したり、造作家具で身体にフィットするベンチをつくったりと、「自分たちの身体サイズを基準に寸法を決める(パーソナライズする)」意識を持つことが大切です。また、柔らかすぎるソファよりも、姿勢を保ちやすい適度な硬さの椅子を選ぶことも健康に直結します。

指針15:地域の建築的伝統や手仕事の技に敬意を払い、支援する

その土地に古くから伝わる伝統的な建築様式や素材(土、木、石)は、何百年もかけてその地域の厳しい気候風土(暑さ、寒さ、雨、風)を克服してきた「知恵の結晶」です。また、地元の職人による手仕事の技を住まいに取り入れることは、地域の経済を循環させ、文化を継承することに繋がります。工業製品で画一化された家ではなく、手仕事の温もりがある家は、住むほどに愛着が湧き、結果的に長く大切にされる(サステナブルな)住まいになります。

日本には「木造軸組工法」をはじめ、左官職人による漆喰や土壁、建具職人による美しい障子や襖など、世界に誇る素晴らしい建築技術があります。しかし、現代の効率化の波に押され、これらの手仕事を担う職人の数は激減しています。 家づくりを単なる「商品の購入」として捉えるのではなく、「地元の職人さんの顔が見える家づくり」を選択することが、これからの日本で非常に重要です。すべてを職人手作りにするとコストが跳ね上がりますが、「リビングの壁の一面だけは左官屋さんに塗ってもらう」「建具の一部を地元の職人さんに造作してもらう」など、無理のない範囲で手仕事を取り入れることで、家は工業製品から「愛着ある作品」へと変わります。

まとめ:家は「心と身体」を育む器

今回ご紹介した「空間造形と建築」の5つの指針は、数値化しにくい「感覚」や「美しさ」「文化」に焦点を当てたものです。 「ただ雨風をしのげて、暖かければいい」という機能性だけを追い求めるのではなく、美しい光があり、良い香りがして、職人の温もりを感じられる空間。バウビオロギーが目指すのは、そうした「人間の尊厳と感性を大切にする家づくり」です。

 

日本バウビオロギー研究会 HP

通信教育講座 バウビオロギー

 

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