エコ・ ソーシャルな生活空間「バウビオロギー25の指針」(バウビオロギー・コラム)

前回のコラムでは、地球環境や地域の循環に目を向けた『持続可能な環境の形成』についてお話ししました。地元の木を使い、エネルギー消費を抑える家づくりは、私たちが次世代に残せる大切な財産です。

しかし、バウビオロギー(建築生物学)が目指すのは、「一軒の健康なエコハウス」を建てることだけではありません。その家が集まり、人々が関わり合って暮らす「地域コミュニティや街全体のあり方」もまた、私たちの心身の健康に深く関わっているからです。

エコ・ ソーシャルな生活空間

今回は、25の指針の第5グループである『エコ・ソーシャルな生活空間』にスポットを当てます。人間らしい豊かな社会のつながりと、環境への優しさをいかに両立させるか。「なぜ大切なのか」「日本での注意点」を交えて解説します。

指針21:生活を支えるインフラデザインにおいて、 バランスのとれた混合利用に配慮する : 仕事場、 学校、 買い物、公共交通機関が近接するように

住む場所(住宅地)と、働く場所(商業・工業地)が完全に分断された街では、日々の長い通勤・通学、買い物のための大移動が発生します。これは移動による膨大なエネルギー浪費(CO2排出)を招くだけでなく、人々の時間や体力を奪い、孤独感やストレスを増加させます。職住がほどよく近接し、歩くか自転車、あるいは公共交通機関で日々の用事が完結する「コンパクトで多機能な街(混合利用)」は、社会的(ソーシャル)な孤立を防ぎ、生活の質(QOL)を圧倒的に高めてくれます。

日本では、戦後の高度経済成長期に「ニュータウン」に代表される巨大な郊外型ベッドタウンが各地につくられました。しかし現在、これらの地域では高齢化が進み、近くにスーパーや病院がない「買い物難民」や、公共交通の廃線が深刻な問題になっています。一方で、車がなければ生活できない地方の「ロードサイド型社会」もエネルギー依存度が高く、高齢者の移動手段の確保が課題です。 これからの日本の家づくり・街選びでは、単に広くて静かな敷地を選ぶだけでなく、「歩いて行ける範囲に小さな商店やコミュニティスペースがあるか」「駅やバス停が近くにあるか」といった、年齢を重ねても暮らし続けられるインフラへのアクセス(職住近接・コンパクトシティの視点)を意識することが非常に重要です。

指針22:環境を保護しつつも、人間の必要をかなえる生活空間をふさわしくかたちづくる

エコロジーを徹底しようとするあまり、人間の暮らしが窮屈で不便なものになってしまっては本末転倒です。バウビオロギーでは、過度な我慢を強いる「自然保護」ではなく、自然の生態系を守りながらも、人間が豊かで心地よく、安全に暮らせる「人間らしいスケール(尺度)の生活空間」をデザインすることを目指します。自然と人間が敵対するのではなく、お互いのニーズを高い次元で満たし合う調和の姿勢が求められます。

現代の日本の都市計画や分譲地開発は、効率や経済性を最優先するあまり、画一的なコンクリートの箱や、アスファルトで覆われた無機質な空間になりがちです。一方で、環境配慮を謳うあまりに窓を極端に小さくして閉鎖的になった、数値主導の省エネ住宅を見かけることもあります。 日本でこの指針を実践するには、日本の伝統的な「里山」の思想がヒントになります。人間が手を入れ、薪を拾ったり、山菜を採ったりしながらも、山の豊かな生態系を守ってきたような関係性です。住まいにおいても、地域の気候風土に逆らわず、光や風を取り入れる開放的な設計(パッシブデザイン)を施しながら、敷地内の小さな自然(庭や菜園)を育み、五感で心地よさを感じられる空間づくりが、人間の精神的な充足にも繋がります。

指針23:地方や都市部のジードルンクに充分な緑地を確保する

街や集落(ドイツ語でジードルンク)の中に豊かな「緑(植物)」があることは、単に見栄えが良いというレベルの話ではありません。植物は二酸化炭素を吸って酸素を生み出すだけでなく、夏場の厳しい直射日光を遮り、葉からの蒸散作用によって周囲の気温を下げてくれます。また、雨水を土壌にキープして洪水を防ぎ、多くの動植物の住処(ビオトープ)となります。そして何より、緑のある風景は、そこに暮らす人々のストレスを大幅に軽減し、コミュニティの憩いの場を生み出します。

日本の都市部や新興住宅地では、敷地境界ギリギリまで建物を建て、残ったスペースを「草むしりが大変だから」「車を停めるから」という理由で全面コンクリートやアスファルトで固めてしまうケースが多発しています。これが、都市全体のヒートアイランド現象を悪化させ、ゲリラ豪雨時の排水パンクを引き起こす原因になっています。 日本の住まいづくりでは、例え小さな敷地であっても、コンクリートではなく透水性の舗装を選んだり、落葉樹を1本植えて夏の木陰と冬の日射確保を両立させたりする工夫が必要です。生垣を作って街並みに緑をひらく、あるいは地域の共有スペースにコミュニティガーデンを設けるなど、プライベートな敷地を超えて「街に緑を増やす」という意識が、これからの厳しい気候を生き抜く日本の住宅地に欠かせません。

指針24:地産地消、自給自足を強化する。地域サービスのネットワークを促進し、需要者と供給者とを結びつける

食べ物も、エネルギーも、日々のサービスも、すべてを遠く離れた海外や大企業に依存する社会は、災害や世界情勢の変動に対して非常に脆弱です。地域の農家から直接野菜を買い(地産地消)、可能なら自宅の庭やベランダで小さな家庭菜園を試みる(自給自足の強化)。さらに、地域の工務店、修理職人、福祉サービスなど、顔の見える関係性(ネットワーク)で経済を循環させることは、環境負荷を最小限に抑えるだけでなく、困ったときに助け合える強力な社会的セーフティネットを形成します。

日本は食料自給率(カロリーベース)が4割を下回り、エネルギーの大部分も輸入に頼っています。また、大規模な流通システムやオンライン通販の普及により、便利になった反面、地元の商店街や地域に根ざした職人技術が失われつつあります。 家づくりをきっかけに、この地域循環を意識してみましょう。例えば、地元の木材や瓦を使い、地域の職人に家を建ててもらう。庭の一角に小さなコンポストを置いて生ゴミを堆肥に変え、家庭菜園でナスやトマトを育てる。地域の直売所(道の駅や朝市)を利用する。こうして「消費だけの暮らし」から、ほんの少し「小さな生産と地域へのコミット」へシフトすることが、日本の地域社会を元気にし、私たちの暮らしに本当の安心をもたらします。

指針25:できるかぎり廃棄物、汚染物質、放射線源、騒音の負荷を受けていない建設敷地を選ぶ

どれだけ建物自体をバウビオロギーに基づいて健康に建てても、その土台となる「敷地(土地)」そのものが汚染されていたり、深刻なストレス源に囲まれていたりしては、本当の健康は得られません。かつて化学工場があり有害物質が残留している土壌、高圧電線や電波塔の直下(電磁波のリスク)、幹線道路や線路沿いの絶え間ない騒音や排気ガス、放射線源となるような要素など、心身に持続的な負荷をかける環境を事前に見極め、回避することが健康な住まいの大前提となります。

国土が狭く、山林が多いために平地が限られている日本では、都市部を中心に「線路や高速道路のすぐ脇」「かつて工場やガソリンスタンドがあった跡地(再開発地)」などが住宅地として販売されることが珍しくありません。また、高視野でのハザードマップ(土砂災害や洪水リスク)の確認も必須です。 土地を購入・選定する際は、価格や駅からの距離といった利便性だけでなく、「土地の履歴(かつて何があったか)」を調べたり、周囲の騒音、振動、電磁波の状況(近くに高圧電線や大きな変電所がないかなど)を五感とデータで確かめたりすることが大切です。どうしても避けられない負荷がある場合は、設計段階で「防音性能を高める」「寝室を負荷の少ない側に配置する」「電磁波シールドの建材を検討する」といった、バウビオロギーに裏付けられた適切な防衛策を講じる必要があります。

まとめ

『エコ・ソーシャルな生活空間』の5つの指針が教えてくれるのは、「家は、社会や地域という大きなネットワークに浮かぶ、ひとつの結び目である」ということです。

私たちの家選びや暮らしの選択は、自分たちの健康を守ると同時に、周囲に緑を増やし、地域の農家や職人を支え、車に頼りすぎない美しい街並みをつくる力を持っています。

「心地よいエコな暮らしは、豊かな社会のつながりの中でこそ、本当の形になる」

一軒の敷地の中に閉じこもるのではなく、街や地域へ優しくひらかれた家づくりを、これからも皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

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バウビオロギー25の指針コラム
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エコ・ ソーシャルな生活空間

日本バウビオロギー研究会 HP

通信教育講座 バウビオロギー

 

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