バウビオロギー25の指針
「バウビオロギー」建築は健康、持続可能性、造形のバランスを取る必要があることを前回のコラムで書きました。
ですが具体的にどのように実現すればよいか悩んでしまいます。
そこでヒントとなる目印が「バウビオロギー25の指針」で示されています。
1980年にアントン・シュナイダー氏によって「25の指針」が提起され、時代に合わせて幾度か改訂されました。現在の指針は5つの大項目と、さらに5つの小項目に分類されています。
ドイツのバウビオロギー研究所IBNのHPで、各国語に訳され公開されています。
より詳しい解説は、日本バウビオロギー研究会の会報誌No.61(2021.3)を参照してください。
バウビオロギー25の指針(2018年改訂)
◆快適な室内環境
・刺激をひきおこす素材、有害物質の使用を減らし、新鮮空気を十分に確保する
・健康を損ねるカビ、酵母菌、バクテリア、塵埃、アレルゲンを回避する
・無臭もしくは良い香りのする材料を用いる
・電磁場、無線(ワイヤレス)通信 を 最小限に
・暖房のために放射熱源を優先する
◆建材の選択と空間のしつらえ
・放射能(ラドン)のできるだけ少ない、自然素材、汚染されていない材料を用いる
・断熱と蓄熱、表面温度と空気温度の調和のとれた関係に留意する
・調湿性能をもった材料を用いる
・新築(躯体)の湿気の放散に注意する
・部屋の音響、遮音を最適にする(低周波も含む)
◆空間造形と建築(人間を基礎に据えたデザイン)
・調和的なプロポーションと形態に注意をはらう
・見る、聞く、嗅ぐ、触れるなど感覚知覚がもたらす印象を支援する
・自然に近い光のバランスと色に注意し、点滅のない照明(光源)を用いる
・生理学的、人間工学的な認識に配慮したインテリアと家具を提案する
・地域の建築的伝統や手仕事の技に敬意を払い、支援する
◆持続可能な環境形成(環境問題、エネルギー、水)
・エネルギー消費を最小限にし、再生可能なエネルギーを利用する
・新築、改修にあって、環境へのネガティブな影響を回避する
・天然資源は有限であり大切に利用する。動植物を保護しつつ。
・地域固有の建築工法を優先し、エコ収支の観点から最もふさわしい材料や経済循環を選ぶ
・質の良い飲料水に注意をはらう
◆エコ・ソーシャルな生活空間をつくる
・生活を支えるインフラデザインにおいて、バランスのとれた混合利用に配慮する:仕事場、学校、買い物、公共交通機関が近接するように。
・環境を保護しつつも、人間の必要をかなえる生活空間をふさわしくかたちづくる
・地方や都市部のジードルンクに充分な緑地を確保する
・地産地消、自給自足を強化する。地域サービスのネットワークを促進し、需要者と供給者とを結びつける
・できるかぎり廃棄物、汚染物質、放射線、騒音の負荷を受けていない建設敷地を選ぶ
バウビオロギー25の指針の変遷
現在の25の指針(上)は、大項目5つにそれぞれ5つの小項目が並ぶのが特徴です。
以前の25の指針は、項目ごとの数はバラバラで、番号が振られ(と言っても優先順位を示しているのではない)内容も理解しやすかったものもあります。
まだまだ学びが足りていません。このコラムを書きながら自分自身の学びを深めたいところです。
過去の25の指針の変遷も参考にしながら現在の指針を見てみると新しい気づきがありそうです。
バウビオロギー25の指針(2005年改訂版)
◆建材と遮音
1.自然建材を適材適所に〔5〕・・・4,7,15,21,23
2.心地よい室内の匂い、有毒ガスを放出しないこと〔13〕 ・・・6,7,13,17,23
3.高い放射能を示さない建材を用いる〔16〕・・・7,11
4.遮音、振動の検討〔15〕 ・・・14
◆居住環境
5.室内の湿気を、吸放湿性のある建材によって調節する〔6+7〕・・・7,23
6.新築物件の湿気と建材の乾燥〔12〕・・・3,7,13
7.断熱、蓄熱のバランスを〔9〕・・・3,7,10,15
8.理想的な室内空気温度と周壁面温度〔10〕・・・3,7,10,15
- 自然換気による良質な空気を(新)・・・3,10
10.放射熱による暖房を〔11〕・・・3,7,10
- 自然の放射領域を変えない〔17+18+20〕・・・7,11,12
12.電磁場、高周波を広げない〔19〕・・・7,11,12
13.カビ、バクテリア、粉塵、アレルゲンの低減(新)・・・13,23
◆環境、エネルギー、水
14.再生エネルギーを利用しつつエネルギー消費を抑える〔11〕・・・5,7,8,10
15.地域材を優先しつつ、限りある資源、貴重な資源の乱開発に歯止めを〔24〕・・・5
16.環境問題に導かないこと〔23〕・・・5,6,7,13
17.できる限り良い飲料水を(新)・・・9
◆空間造形
18.調和的な尺度、プロポーション、フォルムの考慮〔22〕・・・6,17,21
19.色彩、照明、自然採光のバランスを〔14〕・・・22,23
20.空間造形と調度品のための生理学的・人間工学的認識〔21〕・・・20,21
◆建設敷地
21.自然や人工の障害のない建設敷地を〔1〕・・・11,12
22.工業地帯の中心や幹線道路から住居地をはなす〔2〕・・・2,13,14,18,19
23.緩やかに分散した建築の風景、緑あふれるジードルンク〔3〕・・・1,2,17,18,19
24.自然とむきあう、個性的で人間的な住環境〔4〕・・・2,16,17,18
25.社会に負荷を与えない〔25〕・・・1,2,17,18,24,25
* [ ]の数字は、オリジナル版における項目
* ・・・の後の数字は通信教育バウビオロギーIBN の関連巻数
バウビオロギー25の指針(オリジナル)
1.建設敷地を吟味する
簡易式、もしくは精密式の測定機器を用いて、建設立地、寝室、仕事場の測定調査。ラディエステジー(ギリシャ語に由来し「放射線を感じる力」を意味する)のテスト(種子、植物、動物を用いて)。可能であれば医者との共同が望ましい。
2.工業地帯の中心や幹線道路から住居地をはなす
騒音、臭い、外部空気の物質の負荷の測定。商業施設、インフラ整備などの計画に関する情報を手に入れる。遮音や粉塵のフィルターとしての緑化計画。
3.緩やかに分散した建築の風景、緑あふれるジードルンク
ジードルンクや都市の計画(再生)への影響を及ぼすこと。市民のイニシアチブや居住共同体を設立し、指導をする。外部領域では建設禁止というタブーを打ち破り、エコ社会的な土地利用によって置き換える。自然と結ばれた外部空間の造形。
4.自然とむきあう、個性的で人間的な住環境とは
3と類似した問題。住まいづくりの面倒をみる(自力建設、職人)。芸術的に活動する人を支援する。ジードルンク共同体(例:互助組合)を形成する。デモン ストレーションとなるプロジェクトをつくり、メディアを通じて広告をうつ。お年寄り、子ども、障害者、病人を統合する住まいづくり。
5.自然建材を適材適所に
建材の試験、および全体を見通した上での判断基準(製造から廃棄、もしくはリサイクル)に基づいた建材選択。専門文献の評価。建材業、建築家、職人、工務店などへのアドバイスをすること。
6.周壁面は呼吸できるように
外壁面および床、屋根に対して、建材が透湿性能を有するように情報を提示し、吟味する。室内における二酸化炭素、汚染物質の測定。新鮮空気の供給をコントロールする。
7.室内の湿気を吸放湿性のある建材によって調整する
吸放湿性のある自然素材を選択する。空気湿度の測定。透湿遮蔽層を極力避ける。乾燥しすぎ、逆に湿気すぎの室内空気を避けるための改修措置を示しつつアドバイスを。
8.空気中の汚染物質を、建材の吸着性によって無害化する
適切な問題解決(効果的、廉価的)。吸着性能を持った建材、補助材(例:羊毛、ポーラスな構造をもった木材)を組み込む。吟味された空気フィルターを用いる。適切な植裁を用意する。定期的なチェック(有害物質の分析、医者による血液・尿検査)。
9.断熱、蓄熱のバランスを
蓄熱性、断熱性をもった建材を正しく使うことによる、断熱性・気密性の低い室内気候を避ける。日射遮蔽。パッシブな太陽エネルギー利用(特に南面の開口、壁による)。北面のバッファーゾーンの設置。
10.室内空気温度と周壁面温度のバランスを
温度(空気温度、表面温度)の測定、様々な部屋の温度の振幅、および温度勾配。改修やメンテナンスのアドバイス(省エネルギーのためにも)。
11.太陽エネルギーを有効利用しつつ、放射熱による暖房を
対流熱を放射熱に置き換える。(壁暖房、埋め込まれた暖炉など)。省エネルギー暖房。パッシブおよびアクティブな太陽エネルギー。南面ガラス開口とウインターガーデンを統合する。
12.新建築物件の湿気と建材の乾燥
乾燥した建材を推奨する(例:木材、乾式モルタル、乾燥した土ブロックなど)。特にカビ、ダニの問題から、室内空気の乾燥度合いや建材の乾燥(含水率)を測定する。正しい換気の方法をアドバイスすること
13.心地よい室内の匂い、有毒ガスを放出しないこと
匂いのテスト(室内、建材)。室内空気質、建材の分析。快適に感じられ、また固有の匂いをもった、吸着性のある自然素材のみを用いる。
14.色彩、照明、自然採光のバランスを
自然光を有効に利用すること。自然光のスペクトルに近い照明を。自然塗料のみを使うこと。住人の好みの色に相応しくヴァリエーションを。光や色彩のセラピー(医者や治療療法士とともに)。照明の明るさの測定と、理想的状態をつくり出すことへのアドバイスを。
15.遮音、振動の検討
建材、工法、もしくはディテールの適切な選択によって、建築自体による騒音対策を。外部騒音、内部騒音(固体音、空気音)の測定とその改修措置。特に振動の問題に関しては専門家の導入を検討する。
16.高い放射能を示さない建材を用いる
放射線やラドンガスに関して、建設敷地、建材、住まいを調査すること。建材の選択や使用の際の手助け。改修の措置。
17.自然の大気電場を保持する
建材や換気に依存している中で、居室におけるイオン化や電気的等価領域を測定すること。
-小イオン(マイナスイオン)が居住空間で不足しないこと
18.自然地場を歪めない
地場の測定。特に寝室や常時滞在する場所で磁場の障害(ゆがみ、強磁性)をなくすことの手助け。強磁性の建材、補助材などを使用しないこと。
19.人工の電磁場をひろげない
電磁場を測定し、それを避けること。遮蔽の措置。電気設備の専門家と共同し、改修やアドバイスを。電磁場(波)がもたらす患者の助けを。
20.生命に必要な宇宙的・地上的放射線を変えない
「ファラディーのかご(静電遮蔽により金属中に電界が入り込まないことを、ファラデー自らが金属の檻に入って雷に打たれてないことで実証したことに由来す る)」をつくらない。コンクリートスラブのかわりに木床を。金属屋根を用いない。地下室にはプールをつくらない(中性子線の放射のブレーキとなるため)。 室内換気に注意を促す。
21.空間造形のための生理学的認識
居室、寝室、仕事場における居住生理学とエルゴノミー(人間工学)によるアドバイス(特に寝室空間)。
22.調和的な尺度、プロポーション、フォルム
新築、改築の計画の際には、調和に満ちた造形、自然に即した有機的、美的な造形に注意を払う。ジードルンク建設においても同様である。
23.環境問題と製造エネルギー
特殊廃棄物をすでに計画時から避ける努力を。残留物の観点での敷地調査(庭園の土壌も殺虫剤などの導入から同様に)、解体材や廃棄物の評価。僅かな製造エ ネルギーや地場の材料を選択すること。菜園や家庭ゴミ、排泄物の廃棄を、コンポスト、植物による浄化装置、コンポストトイレの計画によって代替えしていく こと。
24.限りある資源、貴重な資源の乱開発に歯止めを
自然成長資源(木材、ワラ、綿、サイザル、麻、ココヤシ繊維、アシ、亜麻など)を使用すること。枯渇しかかった、そして環境問題をひき起こす原材料(石油、金属など)から製造された建材の放棄。
25.社会に負荷を与えない
住まいづくり、改修、ジードルンクや都市計画の際に、健康、エコロジカル、社会的側面を考慮すること。障害者や社会的弱者、不当に扱われている人々を含め、すべての世代のための住まいづくりは、人間の要求を充足するものでありたい。