空間構造の基盤:インフラ(「風の谷」という希望 )
インフラ (「風の谷」という希望)
第Ⅲ部の6つの領域から「空間構造の基盤:インフラ」
基盤的なインフラは大きく4つの系統
- 動脈系:生命維持に必要な資源を運ぶ
- 水道:清浄な水を届ける
- エネルギー
- 通信
- 静脈系:廃棄物を処理する
- 下水道:不要物を回収する
- ごみ処理:廃棄物を分解浄化する
- リサイクル:資源を循環利用する
- 骨格系:空間を支え、形を作る
- 道路網:空間の骨格を形成する
- 擁壁:地形を支える
- 治水施設:水の流れを制御する
- 移動系:物と人の流れを作る
- 物流システム:物資の運搬
- モビリティ:人の移動手段
- 美鶴生拠点:集配の結節点
疎空間における3つの課題
- 人口密度低さに起因する効率性の悪さ
- レジリエンスの確保
- 自然環境との調和
・インフラの多くは基礎的なモジュール(構成要素)でできていることが望ましい。また、必要な部品を限定することで修理や交換が容易。(モジュラー構造)
・経済合理性があればメンテナンスにはローカルな材料の活用が望ましい
・「地産地消」が経済的な消費サイクルに焦点を当てているのに対し、ローカルな材料で製造維持(ヴァナキュラー)できる考え方は災害時などの危機的状況下での自己修復・回復力を重視している
・つまり基盤インフラはモジュラーかつヴァナキュラーであることが大切
動脈系:生命維持に必要な資源を運ぶ
・NOブラックアウトを目指したいが、都市部と異なり、週に1~2時間程度は落ちることを許容するか。
・道と一緒に走る水道、電気の扱い
液体とそれ以外の相性がわるいため、分離して考える。1.電力・通信用、2.水道専用、3.下水道専用
・4つの水
- 生活用水
- 農耕地・牧草地を育む水
- 森林と水源を育む水
- 下流域を育む水
・飲用水はごくわずかで、その100倍近い水が生活用水(風呂、洗濯など)
・水供給の現状を確認すべき4つの要素
- 水源がどこにあり、どのように管理されているか
- 水の供給方法
- 水の用途と使用量の把握
- 水利用のエコノミクス
・水道管の更新は新設の倍近いコストがかかる。更新は162万円/m、新設は88万円/m(東京都の場合)
静脈系:廃棄物を処理する
・排水は2種類。トイレからの排水の下水(ブラックウォーター)と風呂、洗濯からの生活雑排水(グレーウォーター)
・グレーウォーターの再利用システムを検討すべき。
・一人当たりでみた場合、日本は水の多い国ではない
・静脈系の4つの役割
公衆衛生の保護、環境保護、資源の回収と再利用、新しい経済的価値の創出
・ゴミ処理は下水処理と異なり、消費の現場における分別から始まる
・ごみ処理の高コスト地域に共通する特徴として、人口密度の低さによって特に収集、運搬コスト、中間処理施設が高い
- 対策として、輸送効率を高めるためのスケール最適化、ローカルでのごみ処理能力の向上、ごみの質と量のコントロール
- ごみを溜めて一気に運ぶことでトン当たりの輸送コスト削減
- リサイクルや堆肥化などの既存手法で対応可能なごみの地域内処理
- 新技術の導入による地域での処理の可能性
- 一人あたりのリサイクル不可能なごみの量の削減こそ目指すべき
・下水やごみも減ることはない。いかに効率的に集め、害のない形に変換するかが大切
・上水道が経済性をグリッド規模に依存する(グリッド網依存型)一方、下水道は処理施設における規模の経済性が大きく作用(バッチサイズ依存型)する
・上水道本管は主要道路に沿って走っているのに対し、下水道本管は地形に沿って走っている
骨格系:空間を支え、形を作る
・道路関連のコストをいかに下げるか
・2016~2020年平均で年間6.47兆円。
・道路はスペックで大きく単価が異なる
・高規格幹線道路(高速道路や本州四国連絡道路等):約110億円/km ・一般道路平均:約13.4億円/km
・国道クラス:約50億円/km
・トンネル:約680億円/km
・橋梁:約700億円/km以上
・農道:約5億円/km
・道路のスペックは想定交通量と車の重量で考える
・交通荷重が舗装に与えるダメージは、輪荷重と標準荷重の比の4乗に比例して指数関数的に増加する
・舗装道路へのダメージの9割以上が、交通量5%程度の総重量11t以上の大型車によるもの
・「道」の基本的な定義は「人やモノが、ある地点から別の地点へと移動するための、確立された経路」
・「道」を「つなぐ道(集落間)」と「つながる道(集落内)」に分けて考え、道路のスペックを考える
・道路規格の柔軟化、既存道路の段階的な軽負荷化、新技術(透水性舗装、植生工学等)の導入の検討
・「ほぐす土木(逆土木)」:既存の人口構造物を必要最小限まで緩和し、可能な限り自然の力を活かしながら、なおかつ必要な機能を維持すること
物理的なほぐし:浸透性の回復や自然擁壁への転換、景観を阻害する構造物の最小化、生態系の連続など
機能的なほぐし:インフラ機能の見直し。つなぐ道とつながる道に合わせた整備水準の適正化など
時間軸でのほぐし:段階的な移行計画、自然劣化の受容と活用、長期的な再生計画、世代を超えた維持管理計画など
・「ほぐす土木」の重要な4つの視点
- コスト効率、2.安全性の確保、3.地域性への配慮、4.環境負荷への配慮
・傷みも含めて味わいに変えるアプローチ
・アスファルト舗装とコンクリート舗装
アスファルトのメリットは低廉なこと、施工時間が短いこと、修復とメンテが容易なこと、滑らかで静粛な表面が作りやすいこと、リサイクル性が高いこと
コンクリートのメリットは、頑丈で長寿命なこと、近年アスファルトと同程度まで低廉になってきたこと、主成分の石灰石が自国で調達しやすいこと
移動系:物と人の流れを作る
・鉄塔は土地の価値を下げる。特に疎空間では大きく気になる
・近自然河川工法を大きな源流とするグリーンインフラが広まりつつある(日本の伝統的な柳支工、粗朶沈床、木工沈床、霞堤など)
・優れたインフラは、その上に広がる生活や景観の美しさを支え、時にはその源流となる
・景観の語源となるランドシャフトには大きな2つの意味。1つは文化的な影響を受けた美的全体としての主観的な地域認識(哲学的、文化的、科学的な景観)、もう一つは特に地理学において自然科学的な特徴によって形成される地域特性(地理学的な景観)
・経済成長の停止は環境負荷の増加速度を緩めずに過ぎず、負荷そのものの低減には直結しない
・「器官の機能分離」として、インフラの場合分けを行い、それぞれに適した役割と設計を与える。次に「適正な対角」へと調整するために、過剰なインフラスペックを見直し、身の丈に合ったスペックへと転換する。そして「自己調整機能の強化」として脱グリッド化を進め、外部依存から適度な自立へと移行させる。最後に、「他の個体との共生関係」として、近隣都市の相互補完関係を構築する。

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