湿気は壁からも入ってくる?(湿気のはなし②)

マニアックな湿気のはなしの続き。
前回は「夏の湿気は換気から大量に入ってくる?」でしたが今回は「湿気は壁からも入ってくる?」です。

先日、岐阜市に拠点を置く凰建設の森さんと話していて、高性能住宅を手掛ける工務店さんは湿気に関してこれまで考えていなかった視点が出てきているとのこと。それが透湿による湿気流入です。

熱のコントロールは熱貫流率U値で考えます。省エネ基準に使われているので聞き慣れていますよね。

一方の湿気のコントロールは換気と湿気貫流率で考えます。

湿気貫流率?聞いたことがない方も多いのではないでしょうか。

私の「環境デザインサポートツール」の「⑫防露計算」シートでは初期の頃から湿気貫流率を表示しています。私自身もそこまで注意深く見ていることはありませんでしたが、湿度を適切に保とうとすると無視できないことが見えてきました。

例えば、114ページの下記のような付加断熱の構成で計算してみます。

環境デザインサポートツールに入れてみると下記のように計算できます。
室内側に防湿フィルムがあるので冬型内部結露を発生させないですね。

ここで見ていただきたいのが赤く塗った湿気貫流率。

8.498 ng/m2・s・Pa

となっています。

分子側のng(ナノグラム)とは10億分の1グラムというものすごい小さい単位。10の-9乗です。

単位 読み方 g
g グラム 1g
mg ミリグラム 0.001g
μg マイクログラム 0.000001g
ng ナノグラム 0.000000001g

分母側も見てみます。

m2(平方メートル)は部位面積1m2あたりのこと
s(セカンド)は1秒当たりのこと
Pa(パスカル)は内外の水蒸気圧力差が1Paあたりのこと
です。

つまり、部位1㎡、1秒あたり、内外圧力差1Paの時に8.498 ngの水蒸気を圧力の高い方から低い方へ通す性能のことです。

冬の水蒸気流出量

部位面積と秒はわかりますが水蒸気圧も聞き慣れないと思います。
これも「⑫防露計算」シートの右上の温湿度設定のところに記載があります。

室内が内部結露計算の条件の15.0℃、60.0%(準暖房室)の場合、水蒸気圧は1023.43Paです。
外気が6地域の最低平均気温の3.6℃、70.0%の場合、水蒸気圧は553.64Paです。

内外の圧力差は426.36Paになります。冬は概ね室内の方が高いので中から外へ水蒸気が出ていこうとします。

例えば111ページのモデルプランの住宅で、1時間当たりの貫流する水蒸気量は、外壁面積は112.57m2なので、

8.498 ng/m2・s・Pa × 112.57 m2 × 3600 s/h × 426.36 Pa × 10の-9乗

=1.46 g/h

となります。24時間でも35g程度とほぼ無視できる量です。防湿フィルムと構造用合板、付加断熱が湿気の行き来がしにくいようになっているためです。

では、防湿フィルムと構造用合板、付加断熱がなかった(筋交い耐力壁やGW外断熱など)としたらどの程度でしょうか。

湿気貫流率は、478.004 ng/m2・s・Pa になりました。

同じ条件で計算してみると、
478.004 ng/m2・s・Pa × 112.57 m2 ×3600  s/h × 426.36Pa × 10の-9乗
= 82.59g/h

になり、24時間で1982 g と約2Lの水蒸気が壁から逃げて行っていることになります。室内の温湿度を保とうとすると2L分の加湿を足さないといけません。

夏の水蒸気流入量

夏も計算してみます。
前回と同じ室内28.0℃、40%、外気27.0℃、74%(東京8月の平年値)の時で見てみます。平年値なので特別、蒸し暑い日ではなく普通に発生する内外温湿度です。

内外圧力差は1127.18 Paで冬と違い外から室内に湿気が入ってきます。

防湿フィルム等がある場合は、

8.498 ng/m2・s・Pa × 112.57 m2 × 3600 s/h × 1127.18 Pa × 10の-9乗
=3.88 g/h
になり、24時間で93 g の水蒸気が入るだけです。

一方で、フィルムや面材、付加断熱がない場合だと、

478.004 ng/m2・s・Pa × 112.57 m2 × 3600 s/h × 1127.18 Pa × 10の-9乗
=218.35 g/h

になり、24時間で5240 g と約5.2Lの水蒸気が壁から入ってきていることになります。

可変透湿シート使用時の水蒸気流入量

さすがに防湿フィルムや面材、付加断熱がない場合はレアケースでしょうが、夏型内部結露対策で可変透湿シートを使用する場合も、比較的湿気を通しやすい状況になります。
例えば、合板やプラ系付加断熱がない状況で計算してみます。

湿気貫流率は、290.949 ng/m2・s・Pa になり

290.949 ng/m2・s・Pa × 112.57 m2 × 3600 s/h × 1127.18 Pa × 10の-9乗
=132.90 g/h

になり、24時間で3190 g と約3.2Lの水蒸気が壁から入ってきていることになります。

調湿や透湿する壁を計画をして、室内の湿気をコントロールしようとすると無視できない数値です。

加えて屋根や天井面も透湿する構成だとさらに数Lもの水蒸気が入ってくることになります。

つまり、室内を28℃、40%に保つには、換気の24 Lに加え、躯体からの湿気貫流を足した分を除湿しないといけないことになります。

せっかく高性能住宅を建てたんだから室内をコントロールしたいとなったときは、躯体の湿気貫流も考慮してみましょう。
特に自然素材を使って透湿や調湿にこだわるならなおさらです。

なかなか大変です。

ぜんぶ絵でわかる エコハウス」に心地よいエコハウスのつくり方をまとめていますので参考にしてください。

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