開口部の日射熱取得
- 2022.03.10
- エコ・コラム
前回は、ガラスの日射熱取得率η(イータ)値の意味合いを解説しました。ですが実際の開口部では、庇が合ったり、フレームが合ったりと少し補正する必要があります。
開口部の日射熱取得率η値はガラス、付属物、窓枠、庇の4つで決まる
開口部の日射熱取得率η値は①ガラス、②付属物(前回のブログ)に加え、③枠の種類、④庇の4つのバランスで決まります。開口部の日射熱取得率η値を数値でしっかり押さえることで、夏と冬の日射熱取得の効果が明確になります。
■開口部の日射熱取得率η値を計算する
開口部の日射熱取得率η値は、①ガラス+②付属物の値に、③枠の影響と④庇等の補正係数を乗じることで求めることができます。
③ 枠の種類:サッシ種別ごとのガラスの見付け面積を考慮した値で樹脂や木製サッシは枠が太くガラスが小さくなるため0.72、アルミやアルミ樹脂複合サッシは枠が薄くガラスが大きいため0.8を乗じます。
④ 庇等の補正係数は開口部の高さと庇の出から求めます。
庇等の補正係数の簡易計算法は、「住宅省エネルギー技術講習テキスト」の194ページを参照してください。
詳細に計算する場合は、建築研究所の「日よけ効果係数算出ツール」を利用します
たとえば、南の樹脂サッシLow-Eペアガラス日射取得型(付属物なし)で開口部高さ2m、窓上すぐに0.5mの庇(簡易計算法で暖房期0.72、冷房期0.60の補正)が付いていると想定すると、
暖房期は、①ガラスのみの性能0.64×③枠の影響0.72×④庇等の補正(暖房期)0.72=ηH値0.332(33.2%)
冷房期は、①ガラスのみの性能0.64×③枠の影響0.72×④庇等の補正(冷房期)0.60=ηC値0.277(27.7%)
となります。
暖房期は付属物をつけていないにも関わらず、枠と庇の影響で日射熱取得率η値はガラスのみの性能の半分近い0.332(33%)まで減っていることに気づきます。夏は有利ですが、冬の日射取得が減ってしまうのが痛いです。
日射遮蔽は暮らしの中の付属物で対応できますが、後から日射取得を増やすことはできないため計画段階の設計が大切です。
日射量は方位と時間、曇り具合で大きく違う
開口部のη(イータ)値が求まると、ここから日射熱がどのくらい入るかを求めることができるのです。
■開口部から入ってくる日射熱取得量を計算する
下図は、東京の1月と8月の全天日射量の平均的な値です。方位によって日射量が大きく異なることがわかります。晴天日には、図よりもっと多くなりますし、曇りの日はほとんど日射量が見込めません。
(下図は建築研究所 建築研究資料第119号より)
たとえば、東京の1月は南垂直面が最も多く、日中に600W/㎡近い日射量があります。
南に掃出し窓が4㎡(幅2m、高さ2m)あった場合、上記の試算で暖房期のηH値は0.332なので、入ってくる日射熱は、
日射熱取得率ηH値0.332×開口部面積4㎡×全天日射量600W/㎡=796.8W
になります。
一般的な電気ストーブ強が800W程度なので、日中は、ストーブ1個分の熱が開口部から入ってきているという計算です。電気ストーブに比べて面積が大きい(4㎡)ため、電気ストーブのような高温ではなく緩やかな心地よい熱を感じます。
一方夏の南垂直面は300W/㎡程度なので、
日射熱取得率ηC値0.276×開口部面積4㎡×全天日射量300W/㎡=331.2W
と冬の半分以下です。それでも電気ストーブ弱くらいですので、窓際はちょっと暑いです。
ですが、夏だけすだれを吊ると、冷房期ηC値は、
ガラス+すだれの性能0.19×枠の影響0.72×庇等の補正(冷房期)0.60=ηC値0.082
になるので
日射熱取得率ηC値0.082×開口部面積4㎡×全天日射量300W/㎡×=98.4W
と、1/3の100W程度にまで減ります。夏と冬で変化できる付属物の効果が大きいのがわかります。
なにやら数字がいっぱい出てくる計算ですが、じっくり見ると簡単な計算をしているだけです。
開口部の日射熱取得と熱損失の損得計算
では最後に、開口部から入ってくる日射熱と逃げていく熱を比較してみましょう。
下の演習を解くことができますか?(解答は一番下に付けておきます)
南面にある樹脂アルミ複合サッシ 普通ペアガラス(付属物なし)、開口部幅2m、高さ2m、窓上すぐに0.5mの庇(簡易計算法で暖房期0.72、冷房期0.60の補正)が付いていると想定すると、
演習1:暖房期、冷房期の日射取得率η値はいくらか?
演習2:暖房期において南鉛直面に600W/㎡の日射があった場合、どれくらいの熱が入ってくるか?
演習3:樹脂アルミ複合サッシ普通ペアガラス(A12)のU値が3.47W/㎡K、室温20℃、外気温10℃の時、この開口部からの熱損失量はいくらか?
この開口部1か所からの日射熱取得は1,092Wです。一方、熱損失量は139Wですので、日中は差分の953Wのプラスになります。
一方、夜間は日射熱取得は0Wで、熱損失は外気温が下がるほど増加しますので注意が必要です。
樹脂サッシLow-Eペアガラス(G12)日射取得型のU値が2.09W/㎡Kの場合、熱損失量は、2.09W/㎡K×4.00㎡×10.00K=83.6Wの熱損失量になります。その時の日射熱取得が796.8Wなので713.2Wのプラスです。日中は日射熱取得を増やすのが有利ですが、曇りや夜間は高断熱化が有利になります。
普通ペアガラスはLow-Eペアガラスに比べて熱損失量が増えますが、日射取得量は増えます。日当たりの良さや暮らし方(夜間は断熱強化のために障子を閉めるなど)に合わせて適切な窓を選択しましょう。
准教授 辻 充孝
※「無理をしないで心地よくエコに暮らす住まいのルール」を建築知識で連載中。
断熱性能UA値の活用は、2021年9月号(第15回)で解説。
2021年9月号 第15回「日射熱制御の基本① 開口部からの日射熱取得を読む」
RULE1 日射はη値で判断する
RULE2 付属物でコントロールする
RULE3 開口部の日射熱取得率η値は、ガラス・付属物・窓枠・庇の4つで決まる
RULE4 日射量は方位、時刻、曇り具合で大きく変わる
やってみよう! 「開口部の日射熱取得と熱損失の損得計算」
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