5つの基礎計算の比較検証(底板断熱の大切さ)

2024年12月に基礎計算の「定常二次元伝熱計算の代表的な値を用いる方法」が内外断熱併用や基礎下断熱にも対応するなど拡充されます。7月7日のブログでも紹介。

241119 スケジュール追記
2024年12月2日 土間床等の外周部 新評価方法の公開
2026年10月31日 旧評価方法の廃止
参考資料「熱貫流率および線熱貫流率」の評価方法変更のスケジュール

そこで、WEBプログラムや旧来の計算結果との比較をいくつかのパターンで検証してみました。

まずは、現状で使用できる5つの計算法の整理です。

方法1~3は、令和3年に新しく制定され、何度か改訂されてきました。
方法4、5は、旧来からの計算法で当面の間使用できることになっています。

新しい計算(方法1~3)のほうがより実態に近いと考えられますので、どこかのタイミングで新計算法に移行するのが良いと考えられます。

注意点は、新計算法は地際のみで基礎壁の損失は別途追加する必要があること、旧計算法はGL+400までの基礎壁を含むことです。どちらも、基礎の長さあたりの線熱貫流率ψ値で表現します。

基礎例1 基礎内断熱XPS50mm 底板900mm

基礎内断熱として、XPS3種bDを50mmを底板部900mmまで張り付けた計算結果です。

方法1.基礎形状によらない値 1.13W/mK
方法2.定常計算の代表的な値 0.69W/mK
方法3.WEBプログラム値 0.65W/mK
方法4.旧来 簡略計算値 0.57W/mK
方法5.旧来 詳細計算値 0.40W/mK

今回の例だと、旧来の詳細計算のほうがWEBプログラムより6割近く性能が良く出ます。

この後の計算例の比較はこれをベースに行います。

床断熱との比較(基礎例1)

内外温度差1℃の時の熱損失量は、長さと温度差係数を乗じて
方法3.WEBプロ 0.65W/mK×32m×1 =20.80W/K
方法5.詳細計算 0.40W/mK×32m×1 =12.80W/K

その他床の熱貫流率に直すと、(床面積と温度差係数で割り戻す)
方法3.WEBプロ 20.80W/K÷64㎡÷0.7 =0.46W/㎡K相当
方法5.詳細計算 12.80W/K÷64㎡÷0.7 =0.29W/㎡K相当

参考 6地域省エネ基準(等級4)の床仕様基準 0.48W/㎡K

フローリング15+合板24+XPS3種bD(λ0.022W/mK) 大引熱橋
XPS3種bD 50mm 0.45W/㎡K
XPS3種bD 100mm 0.27W/㎡K

同じ基礎仕様でも計算方法によって、倍程度の断熱厚みの違いが発生してくる。

基礎例2 基礎内断熱XPS50mm 底板全面

基礎例1の底板断熱材を全面に貼り付けた仕様です。

方法1.基礎形状によらない値 1.13W/mK
方法2.定常計算の代表的な値 0.69W/mK
方法3.WEBプロ 0.65→ 0.43W/mK
方法4.旧来 簡略計算値 0.57W/mK
方法5.旧来 詳細計算値 0.40W/mK

方法3のWEBプログラムだけが数値が変化し5割程度の性能向上が見込めます。
旧来の詳細計算の性能に近づきました。

基礎例3 基礎内外断熱XPS50mm 底板900mm

基礎例1の基礎壁の外部にもXPS50mmを貼り付けた仕様です。

方法1.形状よらない 1.13→ 1.06W/mK
方法2.定常代表値 0.69→ 0.47W/mK
方法3.WEBプロ 0.65→ 0.41W/mK
方法4.簡略計算値 0.57→ 0.33W/mK
方法5.詳細計算値 0.40→ 0.20W/mK

全ての方法で性能向上が見られます。方法2は今回の改定で新しく得られる数値です。
底板が全面ではないため、旧来の計算法の方がかなり良い値が出ています。

参考:方法2.定常計算は地際0.40+基礎壁0.07=0.47W/mK
参考:方法3.WEBプロは地際0.34+基礎壁0.07=0.41W/mK

基礎例4 基礎内外断熱XPS50mm 底板全面

基礎例3の底板断熱材を全面に貼り付けた仕様です。

方法1.形状よらない 1.13→ 1.06W/mK
方法2.定常代表値 0.69→ 0.47W/mK
方法3.WEBプロ 0.65→ 0.27W/mK
方法4.簡略計算値 0.57→ 0.33W/mK
方法5.詳細計算値 0.40→ 0.20W/mK

基礎例3からは方法3WEBプロのみが性能向上しています。

旧来の詳細計算に近づきましたが、新計算法のWEBプロが3割近く悪く出ます。

参考:方法3.WEBプロは地際0.20+基礎壁0.07=0.41W/mK
下図はWEBプロの入力例と計算結果です。

基礎例5 基礎内断熱XPS50mm 底板短め450mm

基礎例1の底板断熱材を底板部が短い(450mm)場合。

方法1.基礎形状によらない値 1.13W/mK
方法2.定常代表値 0.69→ 0.83W/mK
方法3.WEBプロ 0.65→ 0.81W/mK
方法4.簡略計算値 0.57→ 0.68W/mK
方法5.詳細計算値 0.40→ 0.42W/mK

底板が短くなったため、方法1以外数値が悪い方向に変化します。
新計算法の方が底板の影響を受けています。

基礎例6 基礎内断熱XPS25mm(薄く) 底板900mm

基礎例1の断熱材を50mm厚から半分の25mm厚に変化

方法1.形状によらない1.13→ 1.24W/mK
方法2.定常計算値 0.69→ 0.87W/mK
方法3.WEBプロ  0.65→ 0.84W/mK
方法4.簡略計算値 0.57→ 0.94W/mK
方法5.詳細計算値 0.40→ 0.55W/mK

断熱材が半分の厚さになったため、すべての方法で性能が落ちています。
旧来の計算法の方が影響度が大きいです。

基礎例7 基礎内断熱XPS50mm 底板900mm 建物規模縮小

基礎例1の建物規模8m×8mの基礎面積64㎡から4m×4mの基礎面積16㎡に縮小した場合

方法1.基礎形状によらない値 1.13W/mK
方法2.定常計算の代表的な値 0.69W/mK
方法3.WEBプロ 0.65→ 0.40W/mK
方法4.旧来 簡略計算値 0.57W/mK
方法5.旧来 詳細計算値 0.40W/mK

断熱規模が小さくなり、底板の断熱割合が大きくなったため、WEBプロで60%程度の性能向上が見られます。

まとめ

今回の7事例をグラフ化しました。縦軸は線熱貫流率ψ値[W/mK]
今回の仕様比較では5つの方法全てで旧計算法の詳細計算(青実線)が最も良い値となりました。
ただ、新計算法のWEBプロ(オレンジ実線)も底板断熱をしっかり施すと近い値に迫っています。つまり新計算法では底板断熱の重要性が高まっています。

特に近年増加傾向にある床下エアコンでは、より床下空間の温度が上がり、内外温度差が大きくなることから、底板断熱が大切になります。

 

2024/08/14 コメントへの回答追記

〇新計算法ができた経緯の背景は?

改訂に関わっているわけではないので、推察になりますが、土間床中央部から地中に逃げる熱が、状況次第で無視できないほど大きい場合があることが分かってきたのではないかと思います。
1999年の省エネ基準では土間中央部からの熱損失が計算されていました(それほど大きな損失ではありません)が、H25年の省エネ法改正時にそれほど影響ないとの判断か、なくしていました。(外周から900mmまで参入し、中央部は無視)
ただ、地盤の土質の種類による熱伝導率の違い(鈴木さんの論文なども参考)や、地下水位によっては無視できない熱損失になると考えられます。
このような流れから今回の2021年の新計算法(土間床からの熱損失の影響が大きめ)の追加になったのではと推察します。
1999年省エネ基準の時も土の熱伝導率は基本を1.0としながらも、0.58~1.74W/mKの間くらいの書き方もあり、これだけで倍以上性能が変わってきます。
新計算法は省エネ基準に用いるので、比較的安全側(不利側)での計算をしていると思います。そのため、詳細に計算しても性能が悪く出てしまうため、当面の間、従来計算(旧計算法)を使用できるようにしたのではないかと。

〇実際に近いのはどの計算法か?基礎からの熱の逃げを実測されているような参考論文があれば。

5つある計算法の内、新計算法が実態に近い値が出るのではと思います。
現在、最も詳細に計算できるのは方法3の定常計算WEBプログラム「土間床等の外周部の線熱貫流率の算出プログラム Ver.3.6.0」だと考えられます。
WEBプログラムの計算根拠は、「定常二次元伝熱計算による土間床等の外周部の基礎の線熱貫流率の算定方法」に解説があります。
このWEBプログラムで計算した結果を表にしたものが方法2の早見表です。(省エネ法で使用できるもの。WEBプログラムは、当面の間は有識者等の専門家又は専門機関の認める範囲内で用いることができるとなっています。)
方法2の早見表は、土の熱伝導率は1.00W/mK、地盤深さ3mまで、基礎内20℃、外気温0℃と固定で計算したものになっています。
WEBプログラム上では、土の伝導率も変化させながら計算もできます。
参考になる論文は、
・「基礎断熱住宅の基礎部からの熱損失の定量的評価」2003年 岩前他
・「地盤伝熱の時間遅れを考慮した床下空間を有する基礎断熱からの熱損失量の計算法」2010年 鈴木
・「3次元伝熱解析に基づく土間床などの年間熱損失計算法 : 熱通過率と実効温度差の重回帰式」2013年 鈴木
・「基礎断熱住宅の床下熱損失の評価法に関する研究」2019年 三浦他
あたりでしょうか。

5つの計算法の比較は過去の動画でも概要を見ていただけます。(内外基礎壁断熱は入っていません)

ぜんぶ絵でわかる エコハウス」に心地よいエコハウスのつくり方をまとめていますので参考にしてください。