仙厳園(鹿児島県)

建物名 仙厳園 住所 鹿児島県鹿児島市吉野町9700−1
設計者 島津家19代当主・光久 施工者 -
建築年 1658年 訪問日 2025/9/24

鹿児島市吉野町。錦江湾の穏やかな水面を背に、桜島を借景とする名勝・仙厳園は、薩摩藩島津家の別邸として江戸時代に築かれた庭園建築の粋である。

正門をくぐった瞬間、広がるのは自然と建築が見事に融合した空間。
芝生の緑に映える石灯籠や大きく枝を広げる松、そしてその奥に静かに佇む瓦屋根の御殿が、訪れる者を時代の深層へと誘う。

御殿の屋根には、薩摩特産の錫瓦が葺かれている。

内部に足を踏み入れると、まず目を奪われるのは、釘隠しの意匠である。
柱や長押に打たれた釘の頭を隠すために施された金具は、単なる装飾ではなく、武家建築における美と礼節の象徴。
仙厳園では、様々な釘隠しが随所に見られ、格式の高さと細部へのこだわりが感じられる。

床の間や襖には、薩摩絵師による雅な絵が描かれ、四季折々の草花や山水が静かに語りかけてくる。
障子の桟の細工も見事で、光が差し込むと室内に柔らかな陰影が生まれ、時間の流れがゆるやかに感じられる。
また、天井には格天井が採用されており、格子状に組まれた木材の間に絵や漆が施されている。これは格式ある建築に用いられる技法で、空間に奥行きと品格を与えている。

園内には、幕末期に築かれた反射炉跡が残されている。
これは薩摩藩が西洋の製鉄技術を導入し、大砲などの鋳造を試みた施設であり、日本の近代工業の黎明を示す貴重な遺構である。
反射炉は、薩摩藩が独自に技術を学び、実践しようとした証であり、単なる模倣ではなく創造の姿勢が感じられる。
さらに、仙厳園の奥には水力発電所跡がある。
これは明治期に設置された日本初の事業用水力発電所「関吉の疎水溝」に関連する施設で、園内の水流を利用して電力を生み出していた。
島津家はこの電力を使って照明や機械の動力に活用し、鹿児島の近代化を牽引した。自然の力を活かした持続可能な技術は、現代にも通じる思想である。
併設された尚古集成館は、島津家の歴史と薩摩の近代化を物語る展示館である。
建物自体が明治2年(1869年)に建てられた石造の洋館で、日本の産業博物館としては最古級の建築。
重厚な石積みの外壁とアーチ型の窓が、和と洋の融合を体現している。
館内には、薩摩切子や薩摩焼、反射炉で鋳造された砲弾、初期の電力機器、紡績機などが展示されており、薩摩藩がいかにして技術と産業を育ててきたかが一目でわかる。
特に、島津斉彬の近代化政策「集成館事業」に関する資料は、薩摩が単なる地方藩ではなく、技術革新の先駆者であったことを示している。
最寄り駅は最近オープンしたばかりで桜島を望む味のある風景である。

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