日本基督教団駿府教会(静岡県)西沢大良 設計

建物名 日本基督教団駿府教会 住所 静岡県静岡市葵区相生町15-1
設計者
西沢大良
施工者 不明
建築年 2008年竣工 訪問日 2026/3/21

光と音が織りなす、沈黙の森へ

静岡の市街地に、突如として現れる黒い直方体のボリューム。 西沢大良氏の手によるこの教会は、一見すると宗教建築らしからぬ禁欲的な外装を纏っていますが、その内部には息を呑むような聖なる空間が広がっています。

■ 五感を震わせる、計算された「音の密度」

訪問時、礼拝堂ではちょうどオルガン教室が行われていました。市内の教会で唯一という小型のパイプオルガン(ポジティフオルガン)が奏でる音色は、期待を遥かに上回るほど美しく、空間全体を優しく満たしていました。

この素晴らしい音響を支えているのが、内壁を構成するパイン材の巧妙な設計です。

人の高さに近い場所では板が密に張られて「反響板」として機能し、上部に行くにつれて板の隙間が広がるルーバー状の「疎」な構成へとグラデーションを描いています。 この仕上げ材の密度変化により、音の一部を反射させつつ、残りの音をルーバーの隙間から背後の吸音材へと逃がすことで、極めて質の高い音響空間が実現されているのです。

■ 50cmの「隙間」がデザインする、光のグラデーション

音だけでなく、光のコントロールもまた、この壁と天井の「密度」に委ねられています。 厚さ76cmに及ぶ壁の内側には、約50cmの空隙(第2の空間)が設けられています。天井部の疎なルーバーからは、トップライトからの柔らかな自然光がこの隙間を通って室内に充満し、まるで深い森の中で木漏れ日を浴びているかのような幻想的な感覚を呼び起こします。


■ 言葉に集中するための「引き算の美学」

プロテスタントの伝統に基づき、聖書の言葉にのみ集中できるよう、十字架以外の装飾は一切排除されています。 祭壇に段差を設けない設計は、牧師と信徒が共に聖書に向き合う一体感を生み出しています。

さらに、固定された長椅子ではなく可動式の椅子を採用することで、礼拝だけでなくコンサートなどの行事にも対応できるフレキシブルさを備えています。 「完璧な空間」と評されるこの場所では、建築が単なる器ではなく、「聖なるもの」との出会いを導く装置そのものとなっています。

■ 時間と共に育つ、生きた建築

外壁のレッドシダーは、あえてカンナ掛けを施さないことで、雨風によって炭化したような深い黒色へと変化しています。 一見すると十字架が目立たないデザインですが、ある時期、ある時間帯にだけ、黒い壁に十字架が光り輝いて浮かび上がる瞬間があるといいます。 竣工から10年以上が経過した今も、この教会は静岡の街に静かに根ざし、訪れる人々を温かく迎え入れる「光と音の宝箱」であり続けています。

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