隣棟建物の日照を読む

前回のコラムでは、太陽高度から日の入り方の違いを見てきました。

ですが、実際の土地では、隣家や空地などの周辺環境で日照状況は大きく異なります。
建物の配置計画は部位の構成を考える断熱設計と違って、後から変更することが困難です。周辺環境を読み、理想的な配置計画を考えましょう。

南の方位を大切にする

隣棟の建物を観察するときに、特に日照の上で大切にする方位はどこでしょうか。
これは特別な答えがあるわけではなく、建築計画の定石である建物は南に向けるが正解です。
では方位の影響度を数値で見てみましょう。

下図は、温暖地(6地域)の水平面に当たる日射を100%としたときに、斜入射特性や地表面反射を反映させた各方位の影響度※1を暖房期と冷房期で示したものです。当たり前のことですが理想的な方位は、暖房期に日射が多く、冷房期に少ないことです。
水平面(屋根)は暖房期、冷房期ともに最も日射が多い方位です。トップライトは冬はいいけど夏は暑くなります。
各鉛直面の影響度を見ると、南は暖房期に93.6%と水平面と同程度日射があたる一方、冷房期には43.3%と半分以下まで下がる方位の優等生です。何も対策していなくても、南は暖房期に日射が増え、冷房期には半分になります。一方、北面は暖房期に少なく、冷房期に多くなるという日照の劣等生です。

ここからも分かるように、定石である建物を南に向けることが正しいとわかります。
奇をてらわず、南に日射の取り込みやすい開口部を多く設け、北面はしっかり断熱した外壁でガードして太陽に素直に計画することが基本です。

※1 方位による影響度は、省エネ基準の方位係数ν(ニュー)という係数で地域毎に示されています。他地域は省エネ基準の方位係数を参照してください。

日影図で日照状況を検討

南の方位が大切ということがわかりました。では、南の状況はどうなっていますか?いくら日照時間の多い気候条件でも隣棟が迫っていると敷地に日照が当たりません。

家が密集?道路??駐車場???それらがどの程度日照に影響を与えるか検討できていますか?

日照時間が同じ地域でも周辺環境によって日照状況は大きく異なります。計画地の日照状況を読み取って、計画に活かしましょう。

ここで便利なのが日影図です。聞きなれない言葉だと思いますが、建物が落とす壁を朝から夕方まで時間ごとに書いていく図です。この日影図で、計画地にどの程度影を落とすのかわかります。

例えば、上図は、東西15m、南北9mの計画地(135㎡)の南に2階建ての建物があった場合、影が伸びてきて、敷地に大きく影を落としています。
太線の等時間日影図を見ると、4時間以上日影になる部分が、敷地を圧迫しています。
ここに、南北にいっぱいの建物(赤の太点線)を配置してしまうと、1階は南からの日照はほとんど期待できません。
ですが北側に寄せて東西に長めの計画(赤の太実践)ができれば、南壁面が長く開口がたくさんとれ、かつ、日照も得やすくなります。※3

※2 今回の日影図は全て北緯35°の冬至、8~16時で計算。JW_CADを用いて作図。
※3 東西に長い計画は南北方向の壁が少なくなりがちですので、構造とのバランスを十分考えて計画しましょう。

このように日影図を書くことで、建物の配置計画の検討も可能になるのです。
慣れてくれば、検討は30分もあれば十分可能です。ぜひ設計のスタンダードに組み込んでみてはいかがでしょうか。

准教授 辻 充孝

※「無理をしないで心地よくエコに暮らす住まいのルール」を建築知識で連載中。
周辺環境から日影をよくことに着目した特集は、2021年3月号(第9回)。
隣棟からの日照検討の演習や、このブログで書ききれない内容も書いてます。
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