谷の空間をデザインする(「風の谷」という希望 )
第Ⅳ部 実装と運用の原則 (「風の谷」という希望)
谷の空間をデザインする
・時間の積層の上に築かれた調和のとれた風景こそ「谷の空間デザイン」の目指す姿
・5つのステップで検討
- 谷における空間の本質と役割の定義
- 空間づくりにおける重要視点の整理
- 谷空間をつくる具体的アプローチの検討
- まち商業空間の実践的デザインの展開
- 生活オフィス空間の行動デザインの検討
・谷の空間が「性的な設計物」ではなく「動的なプロセス」
・谷の空間は自然と人間の営みが有機的に融合した全体性を持つ
・空間の3つの役割
- 健全な社会と個人のWell-beingを支える
- 人と人の交わりと喜びをつくる
- 文化の象徴であり求心力を生み出す
・4つのタイプの人的空間が必要
- 居場所、生活する場所、仕事をする空間
- 自宅以外の逃げ場、一人になれる場所
- 人と出会い、気分転換して働けるサテライト空間
- 社会的な機能を持つ空間(飲食店、学校、役所、運動施設、集会所など)
・災害の爪痕などが折り重なることで、そこでしか得られない独自の美しさと深い魅力が生まれる
・谷の魅力と価値
[自然との共生]
・自然との共存(低環境負荷)
・土地の素材を活かす美しさ
・地形がつくる景観
・自然を五感で感じる
・感覚的な直接体験
・生き物として心地よい空間性
・自然が主役の環境デザイン
[文化的価値]
・土地の記憶が感じられる重層性(歴史の痕跡)
・固有の文化を持ち育む土壌
[持続可能性]
・持続的に使える/常に進化する柔軟性
・人間らしい生活の質
[社会的価値]
・多様性を尊重する空間
・人が集う魅力
・開疎性がもたらす刺激と交流
・空間の魅力もまた、整然としすぎた構造からではなく、どこかにゆらぎや「崩れ」があることで、かえって人を惹き付ける。完璧に整った秩序ではなく、予測不可能で柔らかなズレの中に、空間としての生命力が宿る
・谷は変化に対して有機的な新陳代謝を起こしていく「永遠の未完」であるべき
・自然と人の営みが調和する谷空間を構築する7つの重要視点
- 誰もが借景の中で暮らしている
- 空間全体として大切にしているバランスや美しさ、快適さにダメージを与えるようなことはどのような土地でも本来許されない
- 空間は社会的・文化的な価値観を反映する
- 町並みや空間のデザインは人々の行動、感情、思考に大きな影響を与える
- 長い直線は多くの場合、精神に規律と緊張感を与え、曲線、中でも地形に沿った曲線は心に自由と安らぎを与える
- 自然と人工の二項対立は幻想
- 自然と人工は明確にわけられるものではなく、常に相互作用し、影響し合っている
- 第一に人口に見える世界でも生態系と連続している
- 第二に資源とエネルギーは自然と人工世界を循環し、人工物は自然化する。廃棄物は最終的に自然に還元される
- 統合的に捉えることで自然と人工、両者の調和を図ることが大切
- 人は谷的な土地に惹かれる
- 場所と土地に隠された固有の特性は「地形それに気候や植生などを含めた自然」と「歴史的遺産」
- 人々は完全な野生の自然に近い深い畏怖と憧憬は感じるが、これを日々の生活の中で求めているわけではない
- 場所の特性とそこで営まれる人間の生活とがしっくりと調和適合した景観こそ会座すべき絶景の方向性
- 人が共通して好ましいと思う風景は「身を隠すことができる隠れ場所」と「眺望・見晴らしが備わっっている場所」
- 微地形がさまざまな空間の特徴と深みを生み出す
- わずかに高い場所(微高地)は古くから水害を避けるための居住地として選ばれ、わずかに低い場所(微低地)は水田や湿地として利用されてきた
- 微地形が生み出す地形の起伏は、風景に変化と奥行きを与え、その美しさを増幅させる意味でも重要
- 高速の移動インフラは偏在をもたらす
- 高速な移動手段を作れば、高速でつながるノードのところが極端に反映し、逆にそれ以外のノードの周辺はより疎になる
- 一極集中型の空間づくりを極力避けるべきであり、つなぐ道の導入は最小限であるべき
- 意味的・機能的に交わり合う空間が活力を生む
- セミラティス構造は複数の要素が互いに重なり合うネットワーク型の構造であり、重なり合い、柔軟性、多様性が特徴
- 時間を経て育ってきた都市では、地区ごとの特性はあったとしてもある特定の機能しか持たない都市は存在しない(セミラティス構造)混交的に設計された商業モールはと多比すれば違いは明らか
- セミラティス構造の効果的な活用ポイントは、重なり合いを許容し、歓迎すること、多様な視点を認識し、取り入れること、想定外の創発的な変化も含め、自然な発展を促すこと
・谷における空間デザインの特殊性
- 自然を含む多様な領域を包摂する器としての空間を考える必要がある。森や風土のプレゼンスが大きい
- 土地が開疎なうえ、対象面積が広い
- すべてをチャラにして、スクラッチからつくるのはご法度
- 時間軸が長い
- 相互に絡み合う3つの課題を同時に解決することを目指す必要がある。疎でありながらエコノミクスが回ること、災害・パンデミック・人口調整局面に対してレジリエンスであること、土地らしい求心力を持ちながら価値を創出し続けること
・土地ならでは価値を活かした谷づくりには、①同じ「まち」を求めず土地に即したものをつくること、②全体設計をすることなく有機的に発展が続くことがカギ
・空間フェロモンには求心力、ストーリーとも呼びうる、その土地が根源的に持つ人を惹き付ける力(マクロなもの)と路地や店の構造で本能的に人を入り込ませる力(ミクロなもの)の2つがある
・空間フェロモンの7つの根源的な力
- 歴史と革新の融合
- 自然と文明の調和
- 多様な出会いが起きる
- 時間間隔の開放
- 静と動の共存
- 負の遺産のポジティブ転換
- ナマの体験
自然と文明、個と集団、伝統と革新のバランスを慎重にとりながら、創造性と多様性を育む環境を整えること
・土地固有の性質、土地ならではの価値を5つに整理
- 景観
- 自然景観、人口景観、感覚的環境(光や音、香りなど)の要素が時間とともに変化すること
- 自然環境
- 歴史と産業
- 伝統と生活文化
- 芸術と現代の革新
・明らかに避けるべき状況として、歴史的に有名な事物(モノ、寺社など)はあるが、周囲の町並みから完全に浮いてしまっている状況
・土地読みの4用途
- その土地が谷にふさわしいか見極める(候補地選定)
- 絶景・絶快空間の有無
- 取水に過剰な困難がないこと
- 景観的に融和しない、はぎ取れないインフラや建物の多寡
- 人が多すぎないこと
- 土地ならではの味わい深い記憶があること
- 文化的な開疎性
- 谷づくりを本気でやりたいという土地に根差した人音有無
- 天災、疫病に強い土地であること
- その土地が谷ビトが住むのに適した土地か(居住地選定)
- 絶景・絶快の有無
- 古来人が住んできた土地か
- 古代における土地の位置づけ
- 天災リスクの大きさ
- 基礎的な生活インフラの近さ
- 基盤インフラのオフグリッド適正
- その土地を理解し、へそとなる価値を見定める(中心価値設計)
- 具体的な価値創造の曲面で、ヒントになる視点を得る(個別価値設計)
・ほぐす土木による空間再構築
物理的、機能的、時間的ほぐしを基本に、自然の回復力を活かした「生態系を基盤とした防災・減災(Eco-DRR)」の視点を取り入れること
・グリーンインフラの概念を取り入れ、自然の浄化機能や保水能力を活用した柔軟な河川管理が特に疎空間では実現可能
・「ほぐす土木」の4つの重要ポイント(コスト効率、安全性確保、地域特性への配慮、環境負荷の配慮)に基づいて、硬い土木をどこまでほぐすべきかの見極めが必須
・別世界への入り口として路地はとても大切
・路地は微地形に沿って引かれていること
・ナッジ(nudge)とは人々の行動を予測可能な方向に誘導する、穏やかな介入のこと
・建物が密集している集住形態を「つくね型」と呼ぶ。つくね型は、新しい人や文化の流入スペースが乏しく、外部との交流が制限されがち。疎空間では、密の状態をほぐし「ぶどう型」にもっていくべき
・重要となるのは空き地や公園などの「余白」
・「余白」の5つの導入アプローチ
- 再生の可能性の低い老朽建物や空き家などを取り壊す
- 都市とは異なり、建物だけの空間開発は基本認めない
- 余白同士をうまくつなげて、さらに新しい空間を創造
- ブロックそのものを見直す
- ユニット群の集まりに上限のサイズを設けること
・ウォークスコア:クルマではなく、歩く人の視点、とりわけその土地で面白いことを仕掛けようとする人が歩く視点で評価「歩く人にとってどれだけ優しいか」の指標
・ウォークスコアの視点
・自然体験の質
・創造的刺激と交流
・歴史・文化との接点
・歩行環境と体験の豊かさ
・身体活動とリフレッシュ
・多様性があり、様々な機能が折り重なる空間を生み出すカギは「組み合わせ」と「つなぎの柔軟性」
・大切にする価値観にアラインしない人や組織が入ってくることを予防することが大切
・「まち商業空間」を対象とした開疎化の形成は次の段階的ステップで実現
- 単体を作る(ヘソとなるコンセプトの導入)
- 単体と単体が集まる
- コアの発生
- 全体最適化
・谷では都市と異なり、すべてではないが、その土地、もしくは近隣の土地から相当の素材が手に入る
・土着は低廉かつ低環境負荷で基盤インフラをつくり、メンテナンスするための条件
・機能性と合理性の追求、先進的な技術や素材の活用、そして普遍性と持続可能性への配慮を含むことが大切
・土地の文脈や伝統(土着性)と対話しながら、現代の知恵と技術を活かして新しい価値を創造する姿勢が大切
・美しい建築は大切に扱われ、維持される傾向が強い。建物に美しさを組み込むことは、その建物の寿命を延ばし、結果として環境負荷の低減にもつながる
・日本の美意識は、縄文時代からの有機的な曲線と自然との調和を重視する美意識と、弥生時代に代表される整然とした美意識という2つの流れがある
・時間の経過とともに深まる価値を織り込むことが望ましい
・時とともに味わいを増す天然素材の選択、地域の伝統工法の活用、長期的な快適性を重視した設計思想、そして個人や集団の記憶を蓄積できる空間づくり
・町並み全体として記憶を蓄積し、価値を育んでいる
・適切に手入れされ、使い継がれていることで、むしろ深い価値を各遠くしていくという事実
・ハッカブル(変化と適応を促す空間構成)の2つのポイント
- 使われていない空間を解き放ち、ハックをサポートするスキーム
- 手を加えやすい(直しやすい)ように作られている構造・造り・素材
・眠っていた土地や建物が市場に利用可能な形で吐き出され、ハックできるようになることが前提
・まち商業空間に求められる施設
・自宅以外の逃げ場、そこにいけば一人になれる場所
・人と出会う、気持ちを切り替えて働くサテライト的な空間
・社会的な機能空間
・世界的に求心力のある土地はいずれも宿と食べる場所が充実。ホスピタリティの機能を徹底的に磨き込む
・地の産物をふんだんに味わってもらい、土地の人との交流を通じ、さらに土地の理解を深めてもらう。宿泊客は宿の近隣、歴史ある土地、田園や森などを散策する中でリフレッシュし、新たなインスピレーションを得る、もちろんどの宿にも快適な仕事環境が整っていることが大切
・「生活オフィス空間」のデザインの3つの前提
- 人々の日常生活である「住む」と「働く」が適切につながりながら、それぞれが独立性を保てる適度な距離感を持った新しい生活習慣・生活文化を創造する場を提供する(職住の適切な関係)
- そのための空間として、一人の個人から家族やコミュニティなどの複数人の生活単位までが、それぞれ適切な距離感を保って生活できる場づくりを行う(単身から多様な共同生活形態までを包含する場づくり)
- さまざまな状況の変化に対応できる仕組みを有した空間とする(フレキシブルな空間)
つまり、個人用の空間と複数人が交わる空間に分かれ、特定用途向けの空間と幅広い活動用途のある空間に分かれていること
・余白空間を十分にいれること。「間」には2つ以上の異質なものの関係を調停する力があるから
・「間」そのものがポジティブなものとして機能。「間」を差し込むことが谷の空間設計における「開疎」の根本
・間は空間、時間、人間(じんかん)の3つの間とすることが多い
それぞれの人が、他の人との関係を良好につくり(人間)、自らの居場所を融資、適度な距離感をもって日々の生活を送ることができる場を造り(空間)、状況の変化に応じて臨機応変に生活を順応させることができる(時間)
・生活オフィス空間の構成
- 基礎ユニット(集中する、寝る、集まる、話す、食べる)
- 間を持つ空間(間としての廊下、フリースペース、中庭、庭)
- まとまり(一軒家、シェアハウス、オフィス)
・より有機的なセミラティス構造(ネットワーク構造)で、有機的な広がりを促す仕組み(フェロモン)、多様を埋め込むアルゴリズム(抗体構造)、密集化を防ぎ適切な疎を維持する仕組み(間・余白)、つながる道の4セットが柔軟で持続的に成長するまち・生活空間を生み出す
・3つのフェーズで谷を実現
- 発見・埋め込みのフェーズ
- 求心力のある施設や魅力的な居場所は、最初は点在していても、時間とともに自然な広がりを見せる
- 点と点がつながるフェーズ
- ほぐしで生まれたコンクリートの塊を石積みに使うなど、既存構造物に内包されたエネルギーを上手く活かす方法の検討も必要
- 脱皮するフェーズ
・現実的課題・批判への応答、長期的展望
・現行の法規・制度的枠組みとの軋轢が避けられない。特区的なアプローチで実験的な取り組みから始める
・所有権の壁。私権と公共性のバランスを大切にする文化的土壌の醸成が長期的には必要
・どうしても単独で提供できない価値は、谷と谷のネットワーク化、都市との連携、技術革新による遠隔サービスの充実が解決策
・一つの谷が完全に自己完結する必要はなく、特色ある谷同士が連携することで、全体として持続可能な系を形成できる
図版やデータが豊富で読みやすく説得力がある。
過去の「風の谷」という希望の記事リンク
・「風の谷」という希望(安宅和人)
・全体構想と問題意識(第Ⅰ部)
・解くべき4つの課題(第Ⅱ部)
・自然と森、林業(第Ⅲ部-1)
・空間構造の基盤:インフラ(第Ⅲ部-2)
・エネルギー(第Ⅲ部-3)
・ヘルスケア:心を体の健康(第Ⅲ部-4)
・教育と人づくり(第Ⅲ部-5)
・食料生産と食(第Ⅲ部-6)
・谷の空間をデザインする(第Ⅳ部)
・風の谷という系を育む(第Ⅴ部)



