食料生産と食(「風の谷」という希望 )
食料生産と食 (「風の谷」という希望)
第Ⅲ部の6つの領域から「食料生産と食」
・食と農は単なる生存基盤ではなく、三絶(絶景、絶生、絶快)の全てを支える重要な価値の源
・直立二足歩行、道具の使用、火の使用は全て、食を巡る技術革新と深く結びついている
・「食」についての3つの役割
生命活動に不可欠なエネルギーと栄養の供給
その土地ならではの強い求心力の創出
人々が集い交流する場の提供
・その土地の食文化は数百万年という時を経て形成された大地の特性と不可分な関係にある
・一過性の流行や外部からの模倣ではない本質的な強さを持っている
・「農」とは「自然・生命の自己増殖を活用し、人間の生存と社会活動のために操作・制御する営み」であると同時に「人間社会と自然環境の持続的な共存を目指す、調和の模索のプロセス」である。
・農とはNature(その土地固有の風土)の特性を深く理解し活かしながら、そこに人類にとって有用な植物や動物を導入しNarture(耕し)を通じて育んでいく営み
・地球上の可住地のうち、46%が農地
・水利用の大半が農
・食と農の前提となる基礎的な3つの事実
- 人類の生存基盤
- 人類が生存のために依存している動植物の数は驚くほど少ない
- 人類の生存にとって最も価値の高い文化財は主たる農作物と家畜
- 光合成のエネルギー変換効率は自然状態の植物で1%、この目的に特化し育種された農作物でも1~2%
- 植物には光飽和点と呼ばれる光合成速度が最大になる光の強さがあり、この点を超えると光合成速度は増加せず、場合によっては光阻害により減少する
- 最適な生育条件を求めるなら光を制御したほうが良い場合が少なくない
- 畑の上に短冊形の太陽光パネルを設置し、農業生産の最適化を実現するアグリボルタイクスが実施段階
- 食料の半分がハーバーボッシュ法による肥料のアシスト。肥料を生み出す最大級の力は電力
- 日本の肥料の原料(尿素、りん酸、塩化カリウム)の総和で約2%と少ない。その他を特定の国の輸入に頼っており供給や価格変動リスクが大きい
- 環境・持続可能性(農と漁の生態系負荷)
- 環境への過剰な負荷が文系崩壊につながった
- 土壌の深層から塩類を表層に引き上げてしまう犂(すき)による耕起は土壌を著しく劣化させる
- 土壌の生成速度は地域によって異なるがかなり遅い。USA森林局では5cmの表土を生成するのに500年と試算
- 人類の淡水消費の70%が農業用水
- 農業は温室効果ガス排出量の約10~12%を担う重要セクター
- 生み出す富あたりの環境負荷は相対的に高い産業
- 牛のゲップ問題は世界の温室効果ガスの5~3%。電力と熱の10分の1程度のインパクト
- 農業と漁業は密接に結びついた1つの系
- 養殖魚の多く(ブリ、ヒラメ、マダイ、マグロ)が捕食者であるため、餌となる野生種の乱獲を助長している。大半が生餌に依存、マグロを1kg増やすのに13kgの餌が必要
- 文化・社会システム
- 農は概ね疎空間に、食は概ね都市に存在している
- 疎空間のみで完結する食と農のループを考えることは本質的な関係を見失う
- 全ての食材を各地域で自給自足しようとする試みは、この準最適な状態さえも損なう可能性がある。むしろ、地域間の交換を前提とした特色ある農業の発展こそ望ましい
- 日本の農林・水産業がG7の中でも極端に生産性が低いが、伸びしろが大きい
- 疎空間での経済合理性は「広く薄く」という粗放的な土地利用と、それに適した生産形態の組み合わせによって実現できる
- 一般的に豊かになると市場に求められる食の多様性が上がる
- PPKを目指すのであれば、美味しさとは別に軸を頭のどこかに置いておく
・食と農は人類の生存基盤であると同時に、地球環境への大きな負荷要因であり、複雑な社会システムの中で成り立っている
・持続可能モデルのための三層課題
1.グローバルな共通課題、2.農全般の課題、3.疎空間での実現視点でみた課題
・地形に沿った棚田や畑の配置、生物多様性を維持する農法の採用、周辺の森林生態系との共生といった環境との調和が不可欠。同時に、高付加価値作物の選択的導入や観光・教育との連携、最新技術による効率化を通じた経済的持続可能性も確保。伝統的な農法の継承や季節の営みの可視化、コミュニティの関与を通じた文化的価値の維持・創造
・アグロフォレストリーとは、農業と林業を組み合わせた言葉で、樹木と農作物を同じ土地で一緒に育てる農林業システム
初期投資と長期的な管理が必要だが、生物多様性の向上、土壌の保全と肥沃度の改善、炭素固定による気候変動緩和といった利点がある
・パーマカルチャー(永続的農業)は生態系の原理を応用した農業システム。フードフォレスト(食料の森)の概念がある。
・世界各地の持続可能な農法に共通するのは、その土地の自然条件を深く理解し、生態系のプロセスを活用している点
・疎空間における食の特徴と課題(都市と密接に関連する食だが、疎空間ではどうか)
新鮮で旬な素材、風土と土地の記憶に基づく食、空間が美しい、食体験の選択肢が限定的、採算があいづらい
・風土と文化が凝縮された「シグネチャー食」はこの場所ならではのシンボルとなる食。核となるのは発酵、スパイス/調味料、熱加工の3つの基礎技術と現代科学の活用
・持続可能な食のエコシステムの構築には、物流や加工の革新的な取り組みと土地に根差した価値創造の両輪が不可欠
・人材育成と場づくりでは、実践的な体験と通じた学びと異質なものを受け入れ新しい価値を創造できる「異人」の育成が核
・実現には、人々が出会い、アイデアを試し、成長していく場が必要。新しいアイデアを「創る場」、それを実験し検証する「ためす場」、そして長期的な視点で人材を育てる「育つ場」
・面白いことを仕掛けたいと思う人が異分野同士で混ざり合うことが何より大切
・一流の料理人の元では、技術だけでなく、目線の高さ、モノの考え方、言葉では表現されない空気、プロフェッショナルとしてのマインド、いざというときの立ち振る舞いまで学ぶことができる
・絶景・絶快を活かした食空間にはランドスケープ、インテリア、建物デザインまで合わせて生み出す(しつらえ)
・伝統と科学の融合、持続可能な食のエコシステムの構築、人材育成と場づくりという3つの柱を軸に、土地に根差した独自の価値を生み出していく

図版やデータが豊富で読みやすく説得力がある。
過去の「風の谷」という希望の記事リンク
・「風の谷」という希望(安宅和人)
・全体構想と問題意識(第Ⅰ部)
・解くべき4つの課題(第Ⅱ部)
・自然と森、林業(第Ⅲ部-1)
・空間構造の基盤:インフラ(第Ⅲ部-2)
・エネルギー(第Ⅲ部-3)
・ヘルスケア:心を体の健康(第Ⅲ部-4)
・教育と人づくり(第Ⅲ部-5)
・食料生産と食(第Ⅲ部-6)
・谷の空間をデザインする(第Ⅳ部)
・風の谷という系を育む(第Ⅴ部)


