風の谷という系を育む(「風の谷」という希望 )
第Ⅳ部 実装と運用の原則 (「風の谷」という希望)
風の谷という系を育む
・谷を単なる物理的な場所ではなく、人の営みと自然が織りなす生きた系として捉えること
・疎空間を考えるうえで対比となる都市という存在は、経済合理性によってきわめて効率的に最適化されたシステムである。人口密度の集中がもたらす規模の経済、人的資本の集積効果など都市は経済学的にみれば圧倒的に合理的な空間として進化してきた
・しかし、経済的合理性という単一の尺度だけで空間を評価することは、持続可能な未来の構築という観点からは不十分。疎空間における新たな価値創造は都市の単なる否定ではなく、質的に異なる原理に基づく空間の再構築を必要としている
・都市が「最適化された経済系」であるのに対し、谷は「「共生と創発に基づく進化系」といえる
・この系の実現で重要なのは、土地を開く「開疎」という考え方。開疎とは、自然との深い調和の中で生まれる心地よい開放感と、創造的な交流を育む適度な距離感を併せ持つ空間のあり方
・「開疎」には3つの層が重なり合って実現。第一に空間的な開疎性、第二に景観的な開疎性、第三に文化的な開疎性
・谷の4つの重要な視点
- 谷を常に進化し続ける生命体のような存在として捉えること
- 基本的に「境界」としての性質を併せ持つということ
- 系の持続可能性を考えるうえで、適切なエネルギー代謝の設計は避けて通れないこと(エネルギー需要の5割以上が人やモノの移動に関わるモビリティ)
- 自然エネルギーの最大活用と地域資源を活用した補完的な発電の組み合わせが有効なアプローチの一つ
- 系全体としてのレジリエンスは個別の要素の強化だけでは実現できないということ
・モビリティとは単なる物理的な移動にとどまらず、社会的な活動や経済的な機会へのアクセス可能性をも包含する概念
・モビリティのエネルギー源は長期的には化石燃料から電力へのシフトが避けられない
・電力へのシフトの利点
人が生活しているところにはほぼどこでも電力供給があり、減る一方の給油所と異なり、供給が途切れる心配がない
モーターのエネルギー変換効率が他の手段に比べ突出して高く、環境負荷が低い
内燃エンジンに比べ圧倒的にメンテナンスの必要性が低い
・解の一つは個人所有の交通インフラを活用したオンデマンド型のライドシェアサービス。重要な利点は
- 公共側で採算を気にする必要がなく既存のクルマの稼働率を上げる
- 柔軟性が高く、シニア層などに移動の制約ある方々に優しい
- 環境負荷が抑えられる
- 雇用を生む自由度が高まる
- EVであれば分散型のエネルギーシステムにおける「動く蓄電池」として機能
- 人がすくないからこそ、個別最適化された移動手段を提供できる可能性がある
課題として運転手の確保と運賃の適正化が重要
・医薬品や緊急物資の輸送には、航空型ドローンの活用が期待
・「シン・コモンズ」とは谷の系を根幹で支える、新しい共有と関係性のデザイン。参加と貢献を前提とした共有を基本原則とする
・谷への共感という共通項を持ちつつも、それ以外の部分では多様性を積極的に受け入れ、各個人の自発的なかかわり方を尊重すること
・メンバーシップと関係性の設計
- 基本的な交流の場づくりと多様な参加
- その土地に代々住んでいる人々と新しく入ってきた人々との関係性の構築
- 土地で培われてきた知恵や価値観に対する敬意と謙虚さを持ち、土地と人を理解することから始める
- これらの多様な関わり方を実質的に支える対話と合意形成のプロセス
- コミュニティの持続性を担保する参加の段階的な深化がある
- 多層的な価値の共有が原動力
- テクノロジーはこうした営みを補完する道具として活用する
・世代を超えた知恵の継承と谷同士のつながりが重要
・個々の谷が孤立した存在となることを避けるため、ネットワークを形成していくことも必要
・「谷留学」のような人材交流プログラムも有効
・適度な緩さを持ったシステムのほうが長期的には強靭で持続可能なものになる
・WEB3.0技術は、分散型の価値創造という点で重要な示唆を与えてくれる。特に「分散型自立組織DAO」
・谷化の5段階
レベル1 疎空間としてこのままでは存続が危ぶまれる状況
レベル2 これまでとは明らかに異質な希望のある動きが顕在化
レベル3 谷として回り始める。谷としての方向性が相当部分形になっている
レベル4 谷化というより谷-poweredな空間になっている
レベル5 谷は「人間の生きる空間の一つの未来」と確信できる
・谷の13の観点
- 場所の本質的な価値
- 価値・行動規範系
- 自然との共生
- 居場所と過ごし方
- 空間・建築の特徴
- 時間と季節
- コミュニティ・人間関係と人づくり
- 持続可能性とレジリエンス
- 食と農
- 道とモビリティ
- ウェルビーイング
- テクノロジーと共生
- コモンズ/ガバナンス
・谷づくりを始める
- 土地との対話から始める
- 土地読みの実践
- 緩やかなネットワークの形成
- 三絶の種を見つける
- 忘れられた景観の再発見
- 土地ならではの暮らしの知恵を集める
- 出会いと気づきの場をつくる
- 実験と循環の文化をつくる
- 小さな実験の連鎖
- 谷のクラスルームをつくる
- 長期的な視座を持ち続ける
- 潜在的自然植生に基づく100年の森づくりに着手
- 地形・水脈マップの作製開始
- 100年にわたる「間」を育むランドスケーププロジェクトの開始
- 谷のインフラチェックシステムの構築
- モジュラー×土着インフラの実験区画の設定
- 電光迷彩棚田の実験用小区画の設置
- 初期段階の「Noブラックアウト・マイクログリッド」構築
- 「谷の健康長寿学」構築プロジェクトの開始
- 将来の谷ビトを育成するための奨学金制度
- 「地域固有の食文化再生プロジェクト」の開始
- 谷の知恵アーカイブ

図版やデータが豊富で読みやすく説得力がある。
過去の「風の谷」という希望の記事リンク
・「風の谷」という希望(安宅和人)
・全体構想と問題意識(第Ⅰ部)
・解くべき4つの課題(第Ⅱ部)
・自然と森、林業(第Ⅲ部-1)
・空間構造の基盤:インフラ(第Ⅲ部-2)
・エネルギー(第Ⅲ部-3)
・ヘルスケア:心を体の健康(第Ⅲ部-4)
・教育と人づくり(第Ⅲ部-5)
・食料生産と食(第Ⅲ部-6)
・谷の空間をデザインする(第Ⅳ部)
・風の谷という系を育む(第Ⅴ部)


