解くべき4つの課題(「風の谷」という希望 )
解くべき4つの課題 (「風の谷」という希望)
第Ⅱ部 解くべき4つの課題
ニーズの4レイヤーのフレームワーク
・ミニマム要件(不可避領域)
設置するために不可欠な要件
疎空間でありながら基礎的なインフラが機能し続けること
・時代要件(不可避領域)
対応せざるを得なくなった要件
気候変動対応、防災対応、感染症対応のレジリエントな空間
都市部への経済的な依存を前提としないレジリエンス
・コア要件(通常の競争領域)
不可欠なベネフィット
その土地ならではの価値を生み出し、育てられるか
地域の再生に不可欠な人材を引き付け、定着させるために必要な要素
・ペインポイント(未開領域)
日々感じてはいるが誰もまだ満たしていない要件
レジリエンスはまだペインポイントに属するか
地域独自の道路、橋梁、河川・海岸管理などを可能とする土木技術の保持
人口減少と社会保障制費増大の中での経済的自立性や採算性の確保
エコノミクス
・疎空間の経済は大半が都市と未来(債権)から得ている
・都道府県レベルで見ると人口密度は最大と最小で100倍違うが、一人当たりの予算(一般会計予算)は3倍強しか違いがない。(40~80万/人くらい)
・社会インフラ整備を中心に行う基礎自治体で見ると、9万~950万/人と百倍近い開きがある。人口密度が数十を割るあたりから年100万/人を超えてくる
・人口が減れば1人あたりのコストが上がる。
・若い人がシニア層より多い時代に作られたシステムのため、年間2兆円前後(約1.6万円/年・人)社会保障費が増加している一方、財源である社会保険料の伸びが悪い。不足分は一般税収と未来からの借金で補填
・年金を除けば、最も重いのはヘルスケア関連費用、次が土木
・ヘルスケア関連費用は国民皆保険制度によって対応しており、基礎自治体のエコノミクスには直撃していない
・土木インフラ投資が、国や県の補助と巨額の借金で行われているケースが多い
・基礎自治体の出費が少ないのは大きな3つのリスク
・維持費まで国や県が補助するケースはほとんどない
・インフラの維持費は、インフラ単価に比例し増大する
・借金して作られた建設費は自治体持ちであり、この費用(借金返済とインフラ維持費)の多くを負担するのは、今よりも生産年齢人口が少ない未来の世代
・人口密度が上がるほど一人当たりの生み出す価値は緩やかに高くなる
・GDPの約三分の一が税収と社会保障費
・日本の場合、大半の基礎自治体において、人口密度が数千を越さないと採算が合っていない。採算が合う密度は100人/平方キロあたり
・人口密度の低い大半の土地は生み出す価値よりも空間維持コストの方がずっと大きくなる
・舗装道路の整備には土地取得を除いて、国道スペックの道路1メートルあたり約3千万から5千万の費用(30~50億円/km)がかかる。県道レベルで数分の一程度。最も簡素な仕様でもメートル当たり数十万円。水道も一緒に新設すると追加で10万円/m程度上乗せ。つまり低スペックの舗装道路でも5億円/kmはかかる。
・ログスケールで桁が変わっていく「スケール則」が働く。人口密度が1000倍になっても100倍前後しかコストが上がらない。
・疎空間では移動量も多く、環境負荷も相当に高い
・巨大都市の方が、緑に満ちた多くの田園地域よりも経済効率が高く、一人当たりの環境負荷もずっと低い
・疎空間のエコノミクスを考えると、①スケール則を超え、一人当たりのコストを落とす、②都市に匹敵するもしくは超える価値創造を実現する必要がある
・一人当たりのコストを下げるには、
- スペックの見直し
- 空間維持に必要最小限のレベルに見直す
- 身の丈に合ったインフラ整備
- 都市部のための施設(治水、エネルギー、空港など)は別枠で考える
- インフラの場合分け
- 従来の一般基準から脱却し、利用実態に即した分類が必要
- 「つなぐ道」と「つながる道」のように目的に応じた要件の見直し
- 持続可能な維持管理を前提とした設計思想への転換
- 脱グリッド
- グリッドからの自立が可能な機能の見極め
- マイクログリッド、Noグリッドの使い分け
- 地域全体での最適なグリッド機能
- 近隣の都市とセット
- 全ての機能の完全自立は非現実的
- 特にヘルスケアと高等教育は都市との連携
- 相互補完的な関係構築の必要性
レジリエンス
・疎空間は災害時に都市と比較して外部支援が届きにくく、インフラの冗長性も低い
・レジリエンスとは、困難な変化に直面しつつも適応し回復する能力を指す。単なる災害対応を超え、空間そのものが長く生き延び、生き続けられるための視点であり持続可能性を支える基盤
・レジリエンスは3つの相互補完的な要素で構成
- 受け身力
- 被害を最小限に抑える能力
- 完全に防ぐというより適切な被害に抑制する
- 対応力
- 災害発生時に迅速かつ効果的に行動する能力
- 復旧力
- 被災後に速やかに機能を回復する能力
・心のレジリエンスも大切。心が折れず立ち上がる力。空間とコミュニティが支えるべき力
・心理的レジリエンスに資する空間とは「安全である」「人との関係性を育める」「小さな役割を持てる」「自然との接点がある」といった要素を兼ね備えた場所。
・レジリエンスを実現する2つの設計思想
-
開疎化
空間の閉鎖性から開放性への根本的な転換
高密度な人々の活動から分散的な活動形態へ
物理的接触を最小限に抑える行動様式へ
人の物理的移動を抑制し、モノの流通を促進する社会システムへ
開疎化は都市の中でこそまず積極的に進められるべき
-
Disaster-Ready
受け身力と復旧力のバランスが大切
かつての立地選定には理由があったとしても、選びなおす場所には明確な意思が必要
天災の影響を受けにくい空間にこそ、生活の基盤を置くべき
・被災予測および先読み能力については、複数のモデルが連携し合うデジタルツイン的なシステム(現実の地形や建物、インフラをPC上に再現する仮想モデル)の構築により強化
・地震や台風などの一次災害そのものが直接人命を奪うわけではなく、それに続く二次災害(建物倒壊、浸水、土砂崩れ)、三次災害が命を奪う主因
・災害の種類に関わらず、溺死、圧死、焼死が災害時の三大死因
・溺死の回避
・そもそも浸水・津波リスクの高い場所に住まないこと
・発災時に確実に避難できる体制を整えること
・避難が間に合わないときの最終的な生存手段を確保すること
・圧死の回避
・建物の構造強化
・避難経路の確保
・就寝場所の安全確保
・焼死の回避
・出火を防ぐこと
・延焼を防ぐこと
・避難経路を確保すること
・初動対応(72時間以内の対応フェーズ)の7つの課題
- 災害予測の限界、②状況把握の遅延、③事態進行の予測困難性、④リソース把握の困難さ、⑤避難行動の遅れ、⑥行政機能の麻痺、⑦デジタルインフラの脆弱性
・Noブラックアウト(止まらない、すぐ戻せる、緩やかに落ちる)を目指す
・完全なオフグリッド化ではなく、平時がグリッド連携、災害時には自立できる「ハイブリッドNoブラックアウト」が現実的
・「3-2-1の原則」
3つの独立したエネルギー源(グリッド電力、太陽光発電、ディーゼル発電)、2種類の通信手段(地上回線と衛生通信)、一つの統合管理システムで実現する
・中核となる避難施設(学校や集会所等)に3-2-1システムを実装
・Noブラックアウトの実現手法。①多重冗長性(複数の独立システムの組み合わせ)、②オフグリッド自立性(外部インフラ依存の最小化)、③段階的劣化設計(徐々に機能が低下する設計)、④メンテナンスビリティ(専門家以外でも維持管理できるシンプルさ)
・災害による破壊を単なる原状回復ではなく、より持続可能で魅力的な空間への転換の機会として捉える積極的アプローチを検討
求心力
・疎空間の第三の課題として、才能と情熱が際限なく都市へ流出してしまう現状。疎空間そのものが持つ求心力を根本から考え直す必要がある
・疎空間の求心力には3つの本質的な要素が必要
絶景:都市では得られない圧倒的な景観
絶生:創造性あふれる生活基盤
絶快:土地ならではの出会いと気付き
・樹種の多様性が極度に低い針葉樹の単層林で適切な管理がされていない空間は人が近づきがたい。緑は必ずしも良質な自然環境を意味するわけではない
・森林の見通しの良さは人々の好ましさの評価と正の相関がある
・多くの疎空間は本来持っていたはずの固有の価値や美しさを急速に失いつつある
・真の課題は「人材の流出を防ぐこと」ではなく、外から才能を呼び寄せること
・新しいアイデアや価値を生み出す力を仕事の本質にしている人(クリエイティブ・クラス)
・人口規模に依存せず、新しい価値を創造できる
・場所や時間に縛られない柔軟な働き方ができる
・異質なものとの出会うから新しい価値を生み出せる
・土地の文化や歴史に敬意を払い、それらを活かせる
・クリエイティブ層が核となる3つの理由
・スケーラビリティ
少人数でも高い価値を生み出すことができる
・インフラ負荷の適正化
既存の建物や環境を活用でき、インフラへの負荷を最小限に抑えられる
・文化的価値の創造
持続可能な形で伝統技術や地域特有の素材を活用した価値創造を実現できる
・出入りの活性化こそカギ
・絶景
・景観価値は疎空間においてきわめて強力な求心力の根源(コア要件の一つ)
・美しい空間に共通する3つのポイント
・空間はいずれも十分に開かれており、かつ十分に疎である
・地形に応じた有機的な傾斜の変化と多様なスケールの空間が調和的に組み合わさってリ、全体としてのみならず、微視的にも美的価値を保持している
・開かれた空間の大部分が波多江や牧草地など、人の手によって開墾された土地であり、純粋な自然空間ではない
・空間の魅力は、単に自然があるから美しいのではなく、人が手を入れ、空間としてデザインされているからこそ生まれる
・美的価値を備えたアグリスケープ(水田、田畑、牧草地など)を創出し、維持する人々もまた、景観価値を高めるうえで不可欠な存在
・卓越した景観価値は最終的には経済価値につながる
・絶景を育て維持していくためには長期的視座が必要
世代を超えた景観育成
インフラ導入における慎重な判断
記録と継承の仕組み
・絶生
・創造性の高い生活を実現するための基礎的要件が整った状態を「絶生」と呼ぶ
・クリエイティブ・ステイを支える環境
・短期滞在
書類や機材を広げられる十分な作業スペース
長時間の作業に適した家具
安定した高速通信環境
信頼できる電力供給
必要に応じて使用できる大型ディスプレイ
・中長期滞在
適切な価格と空間の確保
一人当たり40m2以上の居住空間
都心部の家具付き住宅と同等以下の料金設定
創造的活動に適した作業スペース
長期滞在者向けの収納・設備
土地の魅力を享受できる眺望と立地
コミュニティとの交流可能性
・3つの課題として医療体制の整備、教育環境の整備、基礎的は生活インフラの整備
・「良質な土地」とは、単に面積や立地だけでなく、その土地が持つ文化的・歴史的な文脈や周辺環境との調和も含めて評価されるべきもの
・受け入れていく目利きの力が求められる
・絶快
・その土地固有の文化や歴史との深いかかわりを通じて、都市では得難い重層的な「出会い」と「気づき」を生み出すことができることを「絶快」と呼ぶ
・絶快には「自然との対話」「土地の記憶との邂逅」「生命力との共鳴」「時間との対話」「コミュニティとの共振」の5つの層がある
・5つの層は、実際の体験においては相互に影響し合い、重なり合って存在している
・世界レベルの景観価値(絶景)、生産性の高い生活基盤(絶生)、土地ならではの出会いと気づき(絶快)は独立した要素ではなく互いに深く影響し合い、補完し合う関係
文化・価値創造
・文化や価値の創造には2つの重要な次元が存在。空間的な次元と時間的な次元である
・この2つの次元が交差するところに真の価値創造が生まれる
・人類史上、新たな文化や価値創造のほとんどが都市的な空間で生まれてきた。
・人、情報、資本が高密度に集積する都市は、新しいアイデアや価値が生まれ、増幅され、伝播していく最適な環境
・人々が出会い、対話し、共に活動する中で生まれる創造的な摩擦や化学反応もまた、新しい価値を生み出す本質的な要素
・疎空間での価値創造の2つのアプローチ
・疎な空間のままで文化・価値創造ができる空間を作ること
・疎空間の中心部に、開疎性やDisaster-Ready性を保ちつつも、ある程度の都市的な文化・価値創造できる空間をつくること
・予定調和的ではない空間構成、多様な存在の共存、異質同士の偶発的な出会いが新しい文化の起点になる
・異質なもの同士が適度に区分けされながらも接点を持ち、そこで価値あるやりとりが生まれている
・必要なのは異質なものの「単なる混合」ではなく、異質なものが適度に区分けされながらも、それらの間に生まれる「創造的な相互作用」を生み出せる環境
・クリエイティブ層が「場を作る」とすれば異人はその「場に火をつける」存在
・創造的な場づくり重要なのは、必ずしも整然とした空間ではなく、人々が自然と立ち寄り、語り合える「すき間」が必要
・多くの疎空間では自衛本能的に外部者を退ける風土が根強く、新たな人々の居場所が存在しない。文化的に「開けた疎」ではなく「閉じた疎」の状態
・単に地域の魅力を再編集することではなく、外からの人や知恵を受け入れ、育てられる土壌=文化的な開疎性を整えることから始める
・常識に縛られず新しい未来を仕掛けようとする面白い人達を「異人」と呼ぶ
・複数の得意分野を持つクリエイティブ層がチームとなって進めること
夢を描き、複数の領域をつないで形にする力
どんな話題でもそれぞれ頼れる人を知っている関係
・新しい価値を生み出す際には、異なる視点や能力を持つ複数の人材が必要
・その土地の文化を深く理解しながら、外部からやってくる人々とも自然に交流できる特殊なタイプの異人が重要
・新たにやってくる人々と元からの住民との混ざり方に2種類ある共生型と置換型
・共生型の成功例に共通するのは、土地の文脈の理解と村長、段階的な発展プロセス、地域との双方向の学び合い、そして適度な異質性の維持という要素
・置換型は新しい住民が地域を置き換えていき、土地固有の価値が失われ、地域の伝統的な営みや文化が消えてしまう。さらに、急激な地価上昇や家賃高騰を引き起こし、長年住んできた住民や店舗の立ち退きを誘発する
・目指すべきは土地固有の文化や価値観を守りながら、新たな才能や視点を受け入れていく「進化的な共生」
・異質な人々の混ざり方には、意図的にデザインできる部分と自然な交流にゆだねるべき部分が存在
・新たな文化・価値創造には、①三絶、②予期せぬ出会いと想像を育む適度な空隙を持つ有機的な場、③異人の育成と多様で面白い人たちの混ざり合いから生まれる
・多様性と持続性、偶発性と熟成性、それらが絶えず交差し、価値が生まれ続ける場「サンゴ礁」的な空間
・土地読みの作業が大切(景観と風土、文化的な産物、人の手によって生み出された歴史ある存在、断片的に残された過去の事象)
・創造的な場にも多様な「すき間」と「居場所」が必要
一度は捨てられた土地や建物、安く済めてセンスも良いクセのある建物、うるさすぎない限り何をしても大体許されること、大体が隙間感に満ちていて表通り感がないこと、隙間のスケールが大きすぎずヒューマンスケールに近いこと、建物が比較的頑丈といった特徴
・サンゴ礁的な3つの場づくり
生命を育む重層的な空間構造、適度な区分けと接続性の両立、新陳代謝を促す開放性
・表層部は都市との接続インターフェイス、中間部は日常的な交流空間、深層部は新しい価値が育まれる創造空間の構成
・時間の視点が不可欠。自然界における熟成や発酵に似た、じっくりとした価値の深化のプロセス
・土地が持つ4つの資本
経済資本、文化資本、人的関係資本、自然資本
・疎空間では自然資本と人的資本を活かすことが、単純な経済原理で動く都市のオルタナティブとして重要
・初期段階では、経済資本を地域内で循環させ、外部への流出を抑えながら徐々に蓄積していく必要がある
・空間が生み出す出会いと交流が時間という軸を通じて、真の価値へと昇華されていく
・例えば、一つの小さなイベントが定期開催されるようになり、そこから派生して新しいコミュニティが生まれ、さらにそこから新しいプロジェクトが立ち上がっていくーーそんな有機的な発展の連鎖。時間をかけることで、深みが増し、文化的な価値と本質的な求心力が高まっていく
第Ⅱ部 解くべき4つの課題解決のまとめ
第一の条件 疎でありながら成立するエコノミクス
第二の条件 高いレジリエンス
第三の条件 三絶的な土地の求心力
第四の条件 サンゴ礁的な文化空間の形成
・日々の営みとしての価値創造:1~3年スパン
重要なのは「仕込み」の質
・中期的な育成:5~10年スパン
管理と調整がカギ
・世代を超えた価値の熟成:30年以上のスパン
土地の記憶を未来につなぐ取り組みが重要
・空間的次元(異質の出会いと交わり)と時間的次元(熟成と発酵のプロセス)は不可分に結びついている。

図版やデータが豊富で読みやすく説得力がある。
過去の「風の谷」という希望の記事リンク
・「風の谷」という希望(安宅和人)
・全体構想と問題意識(第Ⅰ部)
・解くべき4つの課題(第Ⅱ部)
・自然と森、林業(第Ⅲ部-1)
・空間構造の基盤:インフラ(第Ⅲ部-2)
・エネルギー(第Ⅲ部-3)
・ヘルスケア:心を体の健康(第Ⅲ部-4)
・教育と人づくり(第Ⅲ部-5)
・食料生産と食(第Ⅲ部-6)
・谷の空間をデザインする(第Ⅳ部)
・風の谷という系を育む(第Ⅴ部)


